Vol. 2 小さな芽生え ・5

  • ヒナ

    皆と集まるときは、集合しやすい中間のエリアを選ぶから。

  • ルイ

    …なるほどな、それでこの店か。

  • ルイ

    まさか会うと思うてへんかったから、

  • ルイ

    マジでびっくりしたわ。

  • ヒナ

    ふふ、私も。

  • ヒナ

    …ルイくんも、

  • ヒナ

    結構遠くのお店にバイトに来てるんだね。

  • ルイ

    まあ…わりとココ、時給いいしな。

  • ヒナ

    そうなんだね。

  • ヒナ

    バイト、お疲れ様。

  • ルイ

    …おん。

  • グレーのインナーに黒いTシャツを重ねたカジュアルなスタイルは、どうやらこのお店で働く店員のユニフォームらしくて、

  • サッと見渡せば、みんな一様に同じ格好をしている。

  • そんな中で、お世辞じゃなくルイくんは周りから秀でて一番かっこいい。

  • *

    …わ。なになに、このイケメンくん!

  • *

    ヒナの知り合い?

  • *

    いつの間に?!

  • 興味深そうに割って入ったリサに、説明しようと私が口を開くよりも早く、

  • ルイくんがすかさず彼女の言葉尻を拾った。

  • ルイ

    どーも。

  • ルイ

    ヒナの家の隣に住んでる中森ですっ。

  • ルイ

    以後、ご贔屓に。

  • *

    こちらこそー!

  • *

    こんなかっこいい人、ヒナの近所にいたんだー!

  • ルイ

    かっこいいかどうかはさておき、

  • ルイ

    おったんですわ、4年くらい前から。

  • *

    4年前かあ…、ヒナとも高校卒業してからは外で遊んでばかりで、

  • *

    ずっと家に行ってないからなあ…、

  • そりゃ気付くわけないわよ…と、大袈裟に肩を落として見せるリサに、

  • ルイくんは明るく畳み掛ける。

  • ルイ

    まあまあ。

  • ルイ

    今出会ったんやから、過ぎたことはいいですやん。

  • ルイ

    それよりも、おねーさん、

  • *

    うん、なに?

  • ルイ

    俺らスタッフ一同、いつも元気に待ってるんで。

  • ルイ

    他にもたくさん人連れて、またこの店来てな?

  • ヒナ

    ……、

  • ヒナ

    (いやいやいや…、なんて素敵なスマイル)

  • その太陽みたいなその笑顔にどれほどの破壊力があるのか、ルイくんは気付いているのだろうか。

  • それがただの接客の一環だったとしても、

  • もともと年下には興味のないリサだって無視できるわけがない。

  • *

    やーん、絶対にまた来るー!

  • *

    そのときは、ルイくん指名でよろしくっ。

  • ルイ

    指名て。

  • ルイ

    おねーさん、ココ、そういうお店ちゃいますから。

  • *

    そうだけどっ。

  • ルイ

    まあ、できるだけ、おねーさんがオーダーしてくれた料理やドリンクは俺が運ぶようにするんで、

  • ルイ

    それで堪忍してな?

  • 爽やかな微笑と口調で交わす姿は、優美な蝶がひらりと舞うようで。

  • 相手を不快にさせることなく、なんだかとても手慣れている感じがした。

  • ルイくんみたいな人、さすがのリサも見事に陥落だろう。

  • ヒナ

    ……、

  • ヒナ

    (これだからイケメンって…)

  • ヒナ

    (チヤホヤされて、女性をたくさん手玉に取ったりしてね?)

  • ヒナ

    …、

  • ヒナ

    (…いや、そんなこと思うなんて、みっともないな、私…)

  • 内省しつつ、気を取り直して静かにジンジャーエールに口を付けた。

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