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︙
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席に戻り、駆け付け一杯みたいにまたジンジャーエールをオーダーした後、
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影山さんから遠慮がちな言葉が投げかけられた。
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アイト
ヒナさん、あの…っ、
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アイト
連絡先を交換してもらえませんか?
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ヒナ
あ…、連絡先、ですか…、
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予想通り、というか。
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ヒナ
(どうしようかな…、)
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ヒナ
……、
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ヒナ
(連絡先くらいなら、まあいいかな…)
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怪しい人ってわけではなく、杣の友達だし。
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いきなり付き合うとか、そんなわけでもないし。
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ヒナ
…分かりました。
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数秒の迷いの後、軽く頷いて、
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鞄からスマホを取り出し画面をタップしていると、
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*
4杯目のジンジャーエール、お待たせしましたっ!
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とんっ!…と、目の前に淡い琥珀色のドリンクが置かれた。
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ヒナ
ありがとうございます…、
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思っていたよりも早い再オーダーの到着にペコリと頭を下げて、何気なく見据えた先。
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グラスから離れゆくホールスタッフの長い指先が視界に留まれば、
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ふと漠然とした違和感がよぎった。
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ヒナ
…、
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ヒナ
(…ん?)
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ヒナ
(なんかこの感じ…、)
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ヒナ
(え、違う、このミサンガだ、)
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ヒナ
(見たことある気が…)
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ルイ
お客さん、夜に糖類含んだ炭酸飲みすぎたら、
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ルイ
顔とかむくみますよ?
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ヒナ
———えっ…!?
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ルイ
酒ちゃうからって、
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ルイ
ジンジャーエール4杯は、ちょっと飲みすぎちゃう?
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ルイ
ヒナ?
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ヒナ
なっ…、
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ヒナ
(なんでここに…!?)
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思いがけない遭遇に目を見開く。
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ルイ
油断してたら、さすがに太るで?
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スッと小首を傾げて覗き込んでくる笑顔は、ちょっぴり揶揄いを含んでいて。
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ヒナ
え…、なんでここにいるの?
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ルイ
なんでって…、
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ルイ
見て分からん?
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ルイ
俺、ここでバイトしてるんよ。
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見たことがあるはずだった。
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何度か目にしたことのあるミサンガが示した違和感の正体は、
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紛れもないルイくんだった。
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ヒナ
バイトって、いつから?
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ルイ
夏休みの序盤から。
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ルイ
ちょこっと小遣い稼ぎにな。
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ヒナ
そうなんだ…、
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ルイ
おん。
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ヒナ
(だから部屋の電気が真っ暗なときがあったんだ…)
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ルイくんの笑顔を見つめながらぼんやりと思う。
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このところ、夜遅くに帰宅したとき、ルイくんの部屋の電気が灯っていないことに何度か気付いたことがあった。
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眠っているのではないということは分かっていた。
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幼少時に御両親が事故で亡くなってからは、室内が真っ暗だと眠れなくて、
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この年齢になっても常夜灯が必要なのだと話していたから。
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閉じられたカーテンの隙間から零れる明かりが目視できないということは、
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つまり、ルイくんの不在を意味していた。
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ヒナ
(居酒屋でバイトしてたんだ…、納得)
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ルイ
めっちゃ驚いたみたいやけど、
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ルイ
俺も向こうからヒナ見つけたときは、びっくりしたわ。
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ルイ
結構遠くまで飲みに来るんやな。
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苦笑交じりに軽くこめかみの辺りを掻きながら、ルイくんは言った。
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