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ヒナ
…、っはあー!
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ヒナ
うまいっ!
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まるで生ビールを飲み干すように、冷えたジンジャーエールをグッと喉に通してニッと笑う。
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ヒナってば、お酒みたいな豪快な飲みっぷり。
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ヒナ
いいじゃん。
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ヒナ
今日は車だから飲めないし、
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ヒナ
せめてお酒っぽくいかないと。
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お酒っぽくする必要なくない?
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女捨てたような飲み方して…もう。
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隣の席に座る友人・リサの窘めるような耳打ちにも動じることなく、
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ヒナ
いいの。
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ヒナ
これが私。
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目の前の枝豆に手を伸ばして、パクリと口に放り込んだ。
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初めて訪れたこの居酒屋は最近オープンしたそうで、
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5年前から地図の更新をしていない私の車のナビには表示されず、スマホの地図アプリに導かれて辿り着いた。
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普段なら、飲み会のときは電車を利用するのだが、
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今日は仕事も休みで、日中は久しぶりに大好きな祖父母に会いに行き、
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ギリギリの時間まで祖父母宅で過ごしたこともあって、そのまま愛車で合流した。
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今夜は、リサと二人での飲み会ではなく、
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総勢7名の内訳は、男性4人と女性3人。
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そのうち、男性3人と女性2人は高校時代からの私の友人で、後の男性一人は初対面だった。
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定期的に集まっている顔馴染みの飲み会に、見知らぬ男性が一人加わることにちょっぴり抵抗はあったけど、
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久々に集まるのだからと強く推されて顔を出した。
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杣 、そっちのパエリアこの小皿に入れてくれる? -
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お、これな。
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ヒナ
ごめん、私のもお願いー。
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それぞれにいろんな話を持ち寄っては盛り上がり、お酒や食事もいつになく進む。
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初対面の人が加わっていても、普段の飲み会と変わりなく楽しく過ごせていると思えるのは、
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あっという間に2時間近く時間が経っているからだろう。
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アイト
ヒナさんは、動物が好きだから動物看護師になったんですか?
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ヒナ
ええ、もちろんそうです。
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職に就いた理由は事実だが、どこか嘘くさい余所行きの無難な笑顔で切り返してしまう。
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けれど、今日会ったばかりの彼がその自然な予防線に気付くわけがなく、
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アイト
やっぱりそうですか。
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アイト
それなら、天職ですね。
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溌溂とテニスボールを打つような純真な笑顔を返してきた。
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ヒナ
…天職と言えるように頑張ってる最中ですけどね。
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アイト
謙虚ですね、ヒナさんは。
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ヒナ
そんなことないですよ。
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アイト
いえいえ、
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アイト
そんなことあると思いますよ。
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さっきから、こまめに私に話しかけてくるこの人は、杣の友人。
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私の名前をすぐに覚えて語り掛けてくれてるにも関わらず、
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こちら側は記憶することもせず、
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最初の挨拶に添えられた彼の名刺も、ガラス製の箸置きの側に置いたままで。
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ヒナ
(名前は…、えっと、確か…、)
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気付かれないように名刺をチラッと一瞥して、名前を再確認する。
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ヒナ
……、
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<
影山愛斗 > -
名刺の肩書には、【 弁護士 】と記されていた。
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