Vol. 2 小さな芽生え ・1

  • ヒナ

    …、っはあー!

  • ヒナ

    うまいっ!

  • まるで生ビールを飲み干すように、冷えたジンジャーエールをグッと喉に通してニッと笑う。

  • *

    ヒナってば、お酒みたいな豪快な飲みっぷり。

  • ヒナ

    いいじゃん。

  • ヒナ

    今日は車だから飲めないし、

  • ヒナ

    せめてお酒っぽくいかないと。

  • *

    お酒っぽくする必要なくない?

  • *

    女捨てたような飲み方して…もう。

  • 隣の席に座る友人・リサの窘めるような耳打ちにも動じることなく、

  • ヒナ

    いいの。

  • ヒナ

    これが私。

  • 目の前の枝豆に手を伸ばして、パクリと口に放り込んだ。

  • 初めて訪れたこの居酒屋は最近オープンしたそうで、

  • 5年前から地図の更新をしていない私の車のナビには表示されず、スマホの地図アプリに導かれて辿り着いた。

  • 普段なら、飲み会のときは電車を利用するのだが、

  • 今日は仕事も休みで、日中は久しぶりに大好きな祖父母に会いに行き、

  • ギリギリの時間まで祖父母宅で過ごしたこともあって、そのまま愛車で合流した。

  • 今夜は、リサと二人での飲み会ではなく、

  • 総勢7名の内訳は、男性4人と女性3人。

  • そのうち、男性3人と女性2人は高校時代からの私の友人で、後の男性一人は初対面だった。

  • 定期的に集まっている顔馴染みの飲み会に、見知らぬ男性が一人加わることにちょっぴり抵抗はあったけど、

  • 久々に集まるのだからと強く推されて顔を出した。

  • *

    そま、そっちのパエリアこの小皿に入れてくれる?

  • *

    お、これな。

  • ヒナ

    ごめん、私のもお願いー。

  • それぞれにいろんな話を持ち寄っては盛り上がり、お酒や食事もいつになく進む。

  • 初対面の人が加わっていても、普段の飲み会と変わりなく楽しく過ごせていると思えるのは、

  • あっという間に2時間近く時間が経っているからだろう。

  • アイト

    ヒナさんは、動物が好きだから動物看護師になったんですか?

  • ヒナ

    ええ、もちろんそうです。

  • 職に就いた理由は事実だが、どこか嘘くさい余所行きの無難な笑顔で切り返してしまう。

  • けれど、今日会ったばかりの彼がその自然な予防線に気付くわけがなく、

  • アイト

    やっぱりそうですか。

  • アイト

    それなら、天職ですね。

  • 溌溂とテニスボールを打つような純真な笑顔を返してきた。

  • ヒナ

    …天職と言えるように頑張ってる最中ですけどね。

  • アイト

    謙虚ですね、ヒナさんは。

  • ヒナ

    そんなことないですよ。

  • アイト

    いえいえ、

  • アイト

    そんなことあると思いますよ。

  • さっきから、こまめに私に話しかけてくるこの人は、杣の友人。

  • 私の名前をすぐに覚えて語り掛けてくれてるにも関わらず、

  • こちら側は記憶することもせず、

  • 最初の挨拶に添えられた彼の名刺も、ガラス製の箸置きの側に置いたままで。

  • ヒナ

    (名前は…、えっと、確か…、)

  • 気付かれないように名刺をチラッと一瞥して、名前を再確認する。

  • ヒナ

    ……、

  • 影山愛斗かげやまあいと

  • 名刺の肩書には、【 弁護士 】と記されていた。

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