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病院での入院生活を終えて無事に退院した俺は、
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長期に渡って休職中だったことを穴埋めするように、仕事に明け暮れる日々を過ごしていた。
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忙しい毎日を送っているうちに、今まで通りの日々が自然と訪れて、
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俺もアイリも以前と何ら変わることなく、
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仲の良い<兄妹>として過ごしていた。
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秋も深まり始めた頃。
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今日は、俺の誕生日で。
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退院前から何が欲しいのかをアイリからしつこく聞かれていたが、
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思いつかないと言い渋って、結局当日に至った。
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今朝の出勤前にも、質問の答えを放置したままであることに文句を言われたが、
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『美味い飯を作って待っててくれたら、それで十分だ』
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そう告げて軽く頭を撫でると、嬉しそうに笑って見送ってくれた。
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レン
……
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言うまでもなく、俺の中では、
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今年の誕生日プレゼントを何にするのか、もうとっくに決まっている。
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レン
……
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仕事を終えて、いつものように玄関ドアを開くと、
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普段よりもさらに明るいアイリの笑顔が飛び込んできた。
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アイリ
お兄ちゃん、おかえり!
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レン
ただいま。
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レン
…悪い、ちょっと遅くなった。
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アイリ
大丈夫だよ、料理もさっき出来上がったところだから。
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レン
そうか、それなら良かった。
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アイリ
お誕生日おめでとう!
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レン
…それ、朝も言ってくれてたよな?
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ふっと短く笑いながら靴を脱ぎ、
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ベルボーイのように両手を差し出すアイリに向けて、鞄を預ける。
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アイリ
だって、今日はお兄ちゃんが生まれた記念すべき日だもん。
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アイリ
それに…、
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アイリ
今回は、いろいろと大変なことがあったから、
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アイリ
お兄ちゃんが無事に誕生日を迎えられたことが嬉しくて、何回でも言えちゃう。
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レン
……
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<大変なこと>とは、俺があのストーカー紛いの男に刺されたことを言っているのだろう。
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いまだにあの日のことを思い返せば、アイリの柔らかな頬が強張るのが見て取れる。
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レン
…もうあんなことにはならねーから。
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アイリ
…ん、そうだよね…、
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アイリ
思い出すと、まだちょっと…、
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自分が男に目を付けられていたという事実よりも、
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そのせいで俺が命の危機に晒されたということを、アイリは今もずっと憂いていて。
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レン
… アイリ、
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レン
大丈夫だから、心配するな。
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心根に残る不安材料を取り除くように、アイリの頭をポンポンと撫でた。
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アイリ
うん…、
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レン
俺にしてみれば、今回の経験値全部、
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レン
おまえのことを守り切れたっていう勲章だからさ。
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アイリ
…、
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レン
できれば、心配するよりも、
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レン
俺の名誉を湛えてくれた方が嬉しい。
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アイリ
——…
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アイリ
…分かった。
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アイリ
ありがと、お兄ちゃん…。
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どこか感慨深げに俺を見上げたアイリは、気を取り直して静かに微笑んだ。
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