Vol. 11 永遠の陽だまり ・1

  • 病院での入院生活を終えて無事に退院した俺は、

  • 長期に渡って休職中だったことを穴埋めするように、仕事に明け暮れる日々を過ごしていた。

  • 忙しい毎日を送っているうちに、今まで通りの日々が自然と訪れて、

  • 俺もアイリも以前と何ら変わることなく、

  • 仲の良い<兄妹>として過ごしていた。

  • 秋も深まり始めた頃。

  • 今日は、俺の誕生日で。

  • 退院前から何が欲しいのかをアイリからしつこく聞かれていたが、

  • 思いつかないと言い渋って、結局当日に至った。

  • 今朝の出勤前にも、質問の答えを放置したままであることに文句を言われたが、

  • 『美味い飯を作って待っててくれたら、それで十分だ』

  • そう告げて軽く頭を撫でると、嬉しそうに笑って見送ってくれた。

  • レン

    ……

  • 言うまでもなく、俺の中では、

  • 今年の誕生日プレゼントを何にするのか、もうとっくに決まっている。

  • レン

    ……

  • 仕事を終えて、いつものように玄関ドアを開くと、

  • 普段よりもさらに明るいアイリの笑顔が飛び込んできた。

  • アイリ

    お兄ちゃん、おかえり!

  • レン

    ただいま。

  • レン

    …悪い、ちょっと遅くなった。

  • アイリ

    大丈夫だよ、料理もさっき出来上がったところだから。

  • レン

    そうか、それなら良かった。

  • アイリ

    お誕生日おめでとう!

  • レン

    …それ、朝も言ってくれてたよな?

  • ふっと短く笑いながら靴を脱ぎ、

  • ベルボーイのように両手を差し出すアイリに向けて、鞄を預ける。

  • アイリ

    だって、今日はお兄ちゃんが生まれた記念すべき日だもん。

  • アイリ

    それに…、

  • アイリ

    今回は、いろいろと大変なことがあったから、

  • アイリ

    お兄ちゃんが無事に誕生日を迎えられたことが嬉しくて、何回でも言えちゃう。

  • レン

    ……

  • <大変なこと>とは、俺があのストーカー紛いの男に刺されたことを言っているのだろう。

  • いまだにあの日のことを思い返せば、アイリの柔らかな頬が強張るのが見て取れる。

  • レン

    …もうあんなことにはならねーから。

  • アイリ

    …ん、そうだよね…、

  • アイリ

    思い出すと、まだちょっと…、

  • 自分が男に目を付けられていたという事実よりも、

  • そのせいで俺が命の危機に晒されたということを、アイリは今もずっと憂いていて。

  • レン

    アイリ

  • レン

    大丈夫だから、心配するな。

  • 心根に残る不安材料を取り除くように、アイリの頭をポンポンと撫でた。

  • アイリ

    うん…、

  • レン

    俺にしてみれば、今回の経験値全部、

  • レン

    おまえのことを守り切れたっていう勲章だからさ。

  • アイリ

    …、

  • レン

    できれば、心配するよりも、

  • レン

    俺の名誉を湛えてくれた方が嬉しい。

  • アイリ

    ——…

  • アイリ

    …分かった。

  • アイリ

    ありがと、お兄ちゃん…。

  • どこか感慨深げに俺を見上げたアイリは、気を取り直して静かに微笑んだ。

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