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キザキ
ちょっと言い方は良くないけど…、
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キザキ
つまりは、お父さん、
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キザキ
アイリちゃんに嘘をついたんだね。
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レン
……ああ。
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レン
アイリが小学生の時に、友達同士の間で流行った血液型占いだとかで、
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レン
あいつが親父に、『家族の血液型を教えて』って言ったことがあって…、
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レン
その時に親父は、自分の血液型をA型だって教えたんだ。
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キザキ
お父さんとお母さんがO型なら、A型のアイリちゃんは生まれないから、
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キザキ
そのことを悟られることがないように、
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キザキ
お父さんはアイリちゃんに、偽った血液型を伝えたんだね。
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レン
…親父が死んだ時も…、
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レン
アイリは死に目に会えなかったから、
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レン
親父の本当の血液型を知らないままだ。
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キザキ
…そうだよね。
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レン
親父は、物心つく前の幼いアイリと家族になったその瞬間から、
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レン
アイリの母親が死んでからは特に、
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レン
あいつが一人ぼっちにならないようにって、いつも気に掛けてた。
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レン
本当に可愛がってて…、
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レン
<実の娘>だったんだよ、親父にとっては…。
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今の時代なら、血の繋がりをとやかく言うことも少なくなってきているかもしれないが、
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それでも、そのことを気にする背景が全くないとは言い切れない。
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親父はそれを深く憂惧していて、
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仮に、アイリと俺が逆の立場だったら、俺にも同じことをしたと言っていた。
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もしも、いずれアイリが自分の素性に関する秘密を知ることになっても、
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隠し通されていたことが、悲しみとして具現化するのではなく、
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義娘を実の父親として愛していたという事実が色濃く残るのだと、親父は信じていた。
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俺は、純粋に親父のその想いを父親としての愛情だと捉え、
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親父もまた、義理の娘に対しての恵愛だった。
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レン
……親父だけじゃなく、俺も…、
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レン
今までずっと、俺も…、
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レン
嘘をつき続けてきた。
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ただ、俺の嘘は、
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そこに<恋情>が宿る。
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『…僕も今、可愛い子に片想い中。…お互い頑張ろうね、レン』
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以前、サクヤが俺に耳打ちしたあの時点で、俺の気持ちはきっと見透かされていて。
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レン
……
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溢れる想いは、もう隠せない。
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キザキ
レンは、アイリちゃんのこと…、
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レン
おまえの推測通り…、
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レン
俺は、
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レン
アイリのことが好きだ。
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キザキ
…うん、そうだよね。
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柔らかに頬を隆起させて頷いたサクヤは、俺を見つめたままで二の句を紡ぐ。
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キザキ
レンの片想いは、少し前からなんとなく気付いてた。
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レン
…だろうな。
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キザキ
僕、前にレンに言ったことがあるよね、
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キザキ
『レンの味方だよ』って。
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レン
…そういや、そんなことも言ってたな。
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キザキ
あの時はまだ、血の繋がりのことを知らなかったし、二人は実の兄妹だと思ってたけど、
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キザキ
僕はそんなの気にしないから、純粋に君のことを応援してた。
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キザキ
兄妹だろうが何だろうが、
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キザキ
人を愛する気持ちって、素晴らしいじゃない?
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キザキ
だからずっと、レンの味方だったんだけど…、
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レン
…味方『だった』?
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キザキ
うん、
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キザキ
今は、アイリちゃんの味方。
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レン
アイリの?
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キザキ
そう。
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キザキ
なんでだと思う?
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レン
…、なんでって…、
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レン
分かんねーな…。
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キザキ
……
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レン
…サクヤ?
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キザキ
……アイリちゃん、
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キザキ
レンのことが好きなんだって。
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レン
…っ、え——!?
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唐突ながらも、ごく自然に紡がれた言葉に心臓が跳ねる。
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キザキ
もちろん、あの子は血縁の秘密のことを全く知らないよ?
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キザキ
でも、
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キザキ
ずっと前から好きだって言ってた。
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レン
っ、…ずっと、前から…!?
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間髪入れずに付け加えた言葉にも耳を疑い、
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内心で卒倒しそうになりながらも声を振り絞った。
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レン
そ…そんな話、いつ…、
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キザキ
レンの手術が終わるのを、僕と二人で待ってる時に…ね。
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花束のセロファンを指先で軽く整えるように触れながら、
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小さな微笑みを口端に浮かべてサクヤは続けた。
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