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キザキ
今、レンの頭の中に浮かんだ人に関することで…、
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キザキ
僕に話してないことがあるよね?
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レン
…な、なんだよ、いきなり…。
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ギクリとしながらも、何でもないように苦く笑って肩を竦める。
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いつにも増して真剣な表情のサクヤを前に、それ以上の言葉を紡ぐことができず、
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心なしか緊張気味に次の言葉を待った。
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キザキ
僕が訊ねた秘密、
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キザキ
レンが隠してることは、その人に関すること…違う?
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レン
…——
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キザキ
ビンゴ。
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レン
…、
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キザキ
いきなりで驚いた?
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レン
……何を言い出すのかと思った。
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キザキ
だよね。
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キザキ
でも、今話しておかないと…、
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キザキ
レンが完治して元気になったら、お互いに忙しくて、
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キザキ
なかなか話す機会がなさそうだから。
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俺に語り掛けているはずなのに、どこか独り言のようにサクヤの言葉が舞う。
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レン
……つまりは、何の話をしたいんだ?
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キザキ
すごく真面目な話だよ。
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レン
真面目な話?
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キザキ
うん。
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キザキ
…まず、率直に言うね?
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レン
…、ああ。
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なんとなく、今すぐにでも逃避したい感覚。
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じわっと、背中に緊張汗が滲んだ。
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キザキ
レンは、
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キザキ
アイリちゃんの、本当のお兄さんじゃないよね?
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レン
———
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レン
(やっぱり…、)
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嫌な予感というものは、特に避けて通りたいものにたいして的中率が上がる。
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キザキ
もちろん、大当たり?
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レン
……、
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キザキ
無言は了承の印…って、思ってもいい?
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レン
(俺たちのことを調べたのか…?)
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レン
…でも、なんで…、
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掠れた呟きが静まった病室に溶ける。
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取り繕った仮面が砕けて分かりやすく動揺を晒しても、一ミリも表情を変えることのない穏やかなサクヤを、
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それ以降、無言でただ見つめた。
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キザキ
レンのお父さんとアイリちゃんのお母さんがずっと前に再婚して、
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キザキ
君たちは<兄妹>になった。
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キザキ
しばらくして、レンのお父さんの仕事の都合でこの街に引っ越してきたから、
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キザキ
身近に君たち家族のことを知る人はいなくなった。
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レン
……
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キザキ
もちろん、僕も。
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レン
…、
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キザキ
転校してきたレンと友達になった僕も、
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キザキ
レンが隠し通していた血縁の秘密を、今まで知らなかった。
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レン
……
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どういったきっかけがあって、なぜ俺たちのことを深く知ろうと思ったのか。
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これまでの俺なら、その疑問符を吹っ掛けて追究していただろう。
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だが、簡素でも的を得たご名答を披露したサクヤに、
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それ以上問いただすことも、曖昧に濁し続ける気力も、今は削がれてしまって。
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レン
………、降参…。
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長嘆息の後、そっと笑って白旗を上げた。
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キザキ
実際のところ、君たちが本当の兄妹か否かなんて、
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キザキ
僕にはそんなこと、どうでも良くて。
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レン
……え?
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キザキ
一つの腑に落ちない事柄が気になったから、
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キザキ
君たちのことを調べて、血縁のことを知ったわけなんだけど。
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レン
…『一つの腑に落ちない事柄』?
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キザキ
うん。
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キザキ
レンが緊急手術に入るときに、
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キザキ
輸血のことで、アイリちゃんが自分の血液型を聞かれたみたいでね。
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レン
…血液型…、
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キザキ
そう。
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キザキ
血液型、あの子はA型で、
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キザキ
レンはO型でしょ?
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キザキ
自分がレンの役に立てなかったことが悲しかったって、
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キザキ
『ママはO型だったから、もしも生きてたら、ママの血をお兄ちゃんに輸血できたのに』って、
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キザキ
手術を終えてレンが病室に運ばれた後、僕に嘆いたんだよね。
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レン
……
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キザキ
その時に、僕の中で引っかかったのが、
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キザキ
アイリちゃんが、お父さんの血液型のことを言わなかったこと。
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レン
…、
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キザキ
ずっと前に、レンから、お父さんは自分と同じO型だって聞いたことがあったから…、
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キザキ
どうしてアイリちゃんは、
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キザキ
輸血ができたはずのお父さんのことを言わないのかなって、ふと疑問に思ったんだ。
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レン
……
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キザキ
それで僕、アイリちゃんに、
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キザキ
『ちなみに、お父さんの血液型は何型なの?』って聞いたんだ。
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キザキ
そうしたら、
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レン
…自分と同じA型だって、答えたんだな。
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キザキ
うん。
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レン
それが、おまえの言う<腑に落ちない事柄>だったってことか…。
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キザキ
そう。
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キザキ
…ほんとに僕も、アイリちゃんとレンは兄妹だって思ってたから…、
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キザキ
まあ、あんまり似てないなとは思ったけど、
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キザキ
レンがお父さん似で、アイリちゃんはお母さん似なんだなって、何の疑いもなく思ってたから。
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キザキ
その時のアイリちゃんとの会話がなければ、
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キザキ
君たちが血の繋がらない兄妹だってこと、知らないままだったよ。
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レン
……そっか…。
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思えば、周囲にバレることなくここまで来れたのも、不思議なのかもしれない。
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……ほんの少し、沈黙が落ちて。
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少し開いた窓から吹き込む風に押されたカーテンが、その静寂を裂くように揺れたとき、
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サクヤは気遣うように、それでいて躊躇うことなくゆっくりと核心に触れ始めた。
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