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キザキ
そうそう、これ、
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キザキ
お見舞いの花束と、メロンね。
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キザキ
花は、あとで看護師さんに花瓶を借りれるか聞くとして、
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キザキ
メロンは、あと2日ほど置いたほうがおいしいかも。
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言いながら、抱えていたそれらをひょいと掲げて見せると、
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ベッド脇のサイドボードに静かに並べる。
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レン
…メロン!
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レン
おまえ、やっぱり今でも<メロン>なんだな。
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キザキ
…それってどういう意味?
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キザキ
療養中の人にはメロンでしょ。
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レン
まあ…確かにそうかもな?
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少しばかり揶揄うように笑えば、
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サクヤはその含み笑いの正体を悟ったのか、少しむくれたように眉を顰めた。
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…小学生の時、自転車に乗って転んだサクヤが、手首を骨折したことがあった。
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当時、親父に連れられて急いで病院に向かったわけだが、
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血相を変えて駆け付けた俺に向けて、サクヤは開口一番、
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『……ねえ、メロンは…?』
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と、切なげに催促した。
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すでに鎮静剤も効いて落ち着いてはいたが、骨折の痛みでかなり泣いていたらしく、
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目元は泣き腫らしたようになっていて、
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その顔を見た俺は、メロンを持って来てやれば良かった…と、
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子ども心にとても後悔した。
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あの時、サクヤはメロンが大好物なのだと知ったわけだが、
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<見舞いにはメロン>といった、子どもの頃から変わらないそのスタンスがなんだか微笑ましくて、
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つい笑みを深めてしまう。
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レン
…、
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キザキ
……まだ笑ってる。
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レン
…ッ、ああ、
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レン
悪い悪い。
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キザキ
僕が骨折した時のこと、思い出したんでしょ?
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レン
さすがサクヤ、いつも冴えてるな。
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キザキ
…なんか、嬉しくない。
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笑いを噛み殺しながら告げた俺の賛辞を、鼻梁を歪めた面持ちでツンと弾いたサクヤだったが、
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キザキ
……、
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表情を戻して一息の逡巡の色を滲ませた後、
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少しかしこまった様子で俺を見据えた。
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キザキ
……ねえ、レン。
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レン
…ん?
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キザキ
僕たちって小学校からの付き合いで、
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キザキ
一番の親友でしょ?
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レン
…、ああ、そうだな?
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レン
どうした、改まって。
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キザキ
なら…、
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キザキ
僕に隠し事って、何もなかったりする?
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レン
…え?
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キザキ
隠し事、何もない?
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レン
……、
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レン
(いきなりこんな質問、どうしたんだ…?)
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サクヤの探るような眼差しに虚を突かれて、返答を模索する。
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レン
……そうだな…、
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レン
隠し事っていうほどのものでもないことなら幾つかあるかもしれねーが、
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レン
それは、たまたま話す機会がないとかで、話せてないだけで…、
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キザキ
……
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レン
そういったものは、おまえにもあるんじゃねーのか?
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キザキ
…そうだね、
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キザキ
忙しくて話せてなかったり、急を要さないものなら色々あるよね。
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レン
だろ?
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キザキ
でも、そうことじゃなくて。
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キザキ
僕が聞いてるのは、
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キザキ
どうしても言えない…
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キザキ
言いたくない秘密、とか。
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レン
…——
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俺は、素直すぎるのかもしれない。
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<秘密>というキーワードを向けられただけで、
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瞬時にアイリの顔が脳裏で広がるから。
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その動揺を外に出したつもりはないが、
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サクヤは何かを突き止めたように、精悍な瞳をスッと細めた。
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