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キザキ
…あ。
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キザキ
元気そうじゃない。
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レン
…おう。
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サクヤとの電話から数日後。
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病室のドアを薄く開いた隙間から、見慣れた顔がひょっこりと入り込む。
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個室だから気にせず入ればいいのに、一旦室内をくるりと見渡してから、
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大きな花束と何かの箱を小脇に抱えた姿で足を踏み入れた。
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キザキ
寝込んでたらどうしようかと思った。
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レン
心配かけたな…、
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レン
でも、大丈夫だ。
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レン
ゆっくりだが、歩けるようにもなったし。
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キザキ
そう。でも、無理したらダメだよ?
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焦らず室内歩行から慣らさないと…と続けたサクヤは、興味深そうにリクライニングベッドの背もたれに視線を落とす。
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キザキ
へえ…、
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キザキ
この位置で座ってても、傷に当たらないように工夫されてる。
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レン
寝てても座ってても、なかなかの心地よさだ。
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キザキ
それは良かった。
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レン
今回、痛い目にはあったが…、
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レン
俺としては、結果オーライだと思ってる。
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キザキ
……
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レン
…なんだ?
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キザキ
……サラッと言うよね。
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キザキ
助かったからいいものの、
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キザキ
もしも死んじゃってたら、笑って言えないセリフだよ。
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レン
…まあ、そうだが。
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キザキ
分かってると思うけど、
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キザキ
今後、あの男と接見して、レンの中でやっぱり駄目だと思ったら、
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キザキ
できるだけ極刑にしてもらうようにするから。
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レン
…ああ、分かってるよ。
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キザキ
ほんとに分かってる?
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キザキ
レンって無駄に優しいからなあ。
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レン
『無駄に』ってなんだよ。
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キザキ
そのままの意味だけど?
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どこか臨戦態勢のように、サクヤは少し口角を持ち上げる。
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こういったときのこいつは、こちらがどんなに論破しようとしても鉄壁のバリアで意見を貫いてくるから、
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一旦退陣するしかない。
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レン
…はいはい、『無駄に』だよな。
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キザキ
うん、無駄に。
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レン
……
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レン
(相変わらず…)
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にっこりとした黒い笑みを貼り付けたサクヤに、やれやれと苦笑を零した。
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レン
…で?
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キザキ
うん?
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レン
ちなみに、
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レン
その後、あの男はどんな感じで過ごしてるんだ?
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キザキ
……
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レン
……
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キザキ
……
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レン
おい、質問の答え。
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キザキ
……、
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キザキ
…言いたくない。
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子どものようにふいっと視線を横に流して、ぼそりと呟く。
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レン
…は?
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キザキ
……
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レン
『言いたくない』って、おまえ、
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キザキ
……
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レン
刺された俺には、聞く権利があると思うが?
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キザキ
……、
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レン
サクヤ、
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キザキ
分かってるよ、言えばいいんでしょ?
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食い下がるように言い渋っていたサクヤだったが、答えをしぶとく催促する俺に観念したのか
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盛大な溜め息を吐き出した後、ようやく言葉を並べ始めた。
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キザキ
…ものすごーく…、
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レン
……
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キザキ
ものすごーく…、
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レン
…ああ、『ものすごく』?
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キザキ
……
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キザキ
……反省してる。
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レン
…『反省』…、
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キザキ
そ、反省。
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キザキ
一日も早くレンに会って、心から深く謝罪したいってさ。
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レン
…、へえ、
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レン
それはいい傾向じゃねーか。
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キザキ
レンを刺した直後は放心状態だったんだけど、
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キザキ
日が経つにつれて事の重大さを思い知ったみたいで、
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キザキ
『自分は本当に大変なことをしてしまった』って。
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キザキ
『申し訳なかった』って、すごく反省してる。
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レン
…そうか。
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キザキ
アイリちゃんのことも、すっぱり諦めるらしいよ。
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レン
それは、なおいい傾向だな。
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キザキ
…あのね。
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レン
なんだ?
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キザキ
男の発言も態度も全部、<フリ>かもしれないでしょ、不起訴になるための。
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レン
……それは、俺が見極める。
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キザキ
お人好しのレンが?
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レン
つーか、
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レン
おまえもすでに、そいつに嘘がないことを見抜いてるんじゃねーのか?
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キザキ
……
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レン
鋭いおまえなら、接見したり、透視鏡からそいつの姿を覗いたりするだけでも、
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レン
見抜いてそうな気がするけどな?
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キザキ
……
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レン
ご名答ってところか。
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キザキ
…時々、鋭いんだから。
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レン
何年おまえと友達やってると思ってんだ。
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フッと短く笑えば、サクヤは釣られたように口端に笑みを浮かべたが、
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すぐにその表情を引っ込めて、少しむくれたように軽く唇を窄める。
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レン
……サクヤ。
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キザキ
なに?
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レン
…いろいろとありがとな。
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キザキ
……別に、
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キザキ
大したことしてないよ。
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まだ少し、意地を張った眼差し。
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だが、きっと、目の前の<時々天邪鬼な親友>は、
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俺が意識を取り戻すその時まで、死ぬほど心配してくれていたのだろう。
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