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二人でテーブルを囲み、アイリが作ってくれた誕生日のご馳走に舌鼓を打つ。
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レン
アイリ、料理の腕上げたな。
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アイリ
やったあ、ほんとに?!
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レン
ああ。マジで旨いよ。
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今までにも、一緒に囲んできた食卓。
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だが、今日からは、今までとは違う二人の食卓。
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何気ない会話ですら、ときめいて浮ついて、嬉しくてどうしようもない。
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お互いの胸内で少しの照れを感じながらも、
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通じ合った想いの幸福感で満たされていた。
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アイリ
お兄ちゃん、ちゃんと気持ちを言えたから、
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アイリ
キザキさんにメロンとチョコを買わなくていいよね?
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レン
…そうだな。買わなくて済む。
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アイリ
あの金額をざっと計算したら、
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アイリ
軽く100万円を超えちゃうよ?
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レン
…マジか。
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アイリ
ちゃんと計算しなかったの?
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咀嚼していたフライドチキンを飲み込んで一息ついてから、
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アイリはちょっぴり揶揄うようにクスクスと笑う。
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レン
どうりで…、
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レン
あいつ、『俺の経済が困窮する』って言ったわけだな。
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アイリ
ふふっ、キザキさん、そんなこと言ってたんだ。
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レン
ああ。
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レン
…いくら好きな食べ物でも、あれだけの量、サクヤの胃袋はどうなってんだ。
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アイリ
そんなの、冗談で書いたんだよ、きっと。
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レン
いや。
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レン
おまえはあいつの真の恐ろしさをまだ知らない。
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レン
あいつは、冗談なんかであんなことは書かねーからな…。
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レン
もしも俺がおまえに気持ちを伝えなかったら、
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レン
俺は確実にあれを買わされてた。
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セルクルサラダをフォークで軽く突き刺して苦く笑う。
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レン
でも、まあ…、
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レン
(持つべきものは、真の友、か…)
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レン
……
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アイリ
…お兄ちゃん?
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レン
…ん?
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レン
いや…、まあ、
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レン
あいつにはいろいろ心配かけたし、
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レン
100個とまではいかないが、近いうちに幾つか買って持って行くか。
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アイリ
その時は私も行く!
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レン
そうだな、
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レン
一緒に行った方が、サクヤもきっと喜ぶ。
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アイリ
いろいろとお世話になってるから、改めてちゃんとお礼を伝えなきゃ。
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レン
…だな。
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アイリ
私たちの<恋人宣言>も聞いてもらいたいしねっ。
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レン
…———
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アイリ
……お兄ちゃんって、
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アイリ
意外とシャイなところあるよね?
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レン
…っ、いや、
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レン
アイリが意外と大胆なんだろ?
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視線を逸らし、らしくなく頬をほんのりと赤らめた俺の姿に、
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アイリは無邪気に目元を綻ばせて。
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アイリ
照れるお兄ちゃんを初めて見た!
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レン
……、
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アイリ
ふふっ。
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レン
…、
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アイリ
……、
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レン
……アイリ、
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アイリ
…んっ?
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レン
ニヤニヤしすぎだ。
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照れ隠しにわざと不機嫌に眉根を寄せたものの、
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戻した視線がアイリのものと交われば、自然と優しい笑顔になる。
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……いつだったか、
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『しなくてもいい遠回りをしている』
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と、もう一人の俺が言った。
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だが、そのときの俺は、
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どうしても『近道』を選ぶことができなかった。
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もしも今、過去の自分に声を掛けることができたなら、
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それでもいいから、
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諦めずに愛し続けろと伝えるだろう。
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終着点でもあり発着点でもある、やがて辿り着くその場所は、
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自分が求めて止まない世界だから。
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レン
サクヤにもらった旅行券で、クリスマスにどこかに行くか…、
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レン
アイリはどこに行きたい?
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アイリ
…わ!そっか!
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アイリ
今年のクリスマスは、
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アイリ
たくさんお兄ちゃんと過ごせるのか…!
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アイリ
めっちゃ嬉しい!
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レン
これからは、毎年だな。
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今日も、
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明日も、
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そして、これから先もずっと。
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俺たちは、明るく暖かな、永遠の陽だまりの中にいる。
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*
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*
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*
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Fin.
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Special Thanks to … Dear Readers.
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一恋(ICHIKOI)END
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