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レン
すげーな!
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レン
頑張ったな、アイリ!
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先に自室でルームウェアに着替えてリビングに戻った俺は、
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ダイニングテーブルの上に綺麗に並んだ見事な手料理に目を瞬く。
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ミルフィーユのようなセルクルサラダや様々な野菜が盛り込まれたチョップサラダ、
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魚介のマリネに、ミートローフやローストビーフ、フライドチキン。
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旨そうな薫りが鼻腔を刺激し、
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美しく盛り付けされた色鮮やかなご馳走を前に、俺の空きっ腹が大きく一鳴きした。
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レン
マジで、腹の虫がやべーな。
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アイリ
ふふっ、たくさん食べてね。
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レン
ああ、全部平らげるぞ。
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アイリ
しかも、今回はこれだけではないのです…、
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レン
…ん?
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アイリ
じゃーん!これ見て!
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アイリ
なんと、今回は、
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アイリ
ホールケーキにも挑戦して作ってみましたー!
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スイーツを作るのが得意な友達に作り方を教えてもらったのだと、
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キッチンカウンターの上に置いてあるケーキに向けて両手をヒラヒラさせながら、得意げに誇張して見せた。
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アイリ
…すごくない?
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レン
ヤバイだろ。
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アイリ
でしょー!
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生クリームでコーティングされたそれは、カットフルーツをふんだんに使ったなかなかの力作で、
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俺好みの果物が多めに盛られたそのバランス具合だったり、
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所々クリームが歪に波打っている側面だったり、
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手作りならではのほっこり感が伝わるようで、思わず笑みが滲む。
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レン
やるな、アイリ。
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アイリ
こう見えて、やればできる女なんです。
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レン
知ってるよ。
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アイリ
えへへ。
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アイリ
…あ、そうだ、ろうそく、ろうそくー。
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キッチンキャビネットの引き出しから数字を模ったカラフルなキャンドルを取り出したアイリは、茶目っ気たっぷりに破顔して、
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ケーキの真ん中にそれらをゆっくりと差し込んだ。
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アイリ
…わ。めっちゃいい感じ。
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アイリ
後で火をつけるから、フウッってしてね?
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レン
…なんだか、食べるのがもったいねーな。
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アイリ
ふふ。
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アイリ
…あ、そうだ、
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アイリ
お兄ちゃん、誕生日プレゼント、もう決まった?
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レン
……、
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アイリ
あれー??
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アイリ
まさか、まだ決まってないとかじゃないよね?
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レン
……いや、
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レン
ちゃんと決まってる。
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アイリ
ほんと!?
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アイリ
じゃあ教えて、週末に買いに行ってくるから。
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レン
……アイリ、
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俺を見つめる満面の笑顔のアイリを穏やかな眼差して受け止めた後、手招きして側へと誘う。
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静かに歩み寄ったアイリは、不思議そうに俺を見上げた。
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アイリ
…ん?どうしたの?
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レン
…今日は、こうやって、
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レン
俺の誕生日を祝ってくれてありがとうな。
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アイリ
ううん、そんなの全然。
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レン
毎年こうして祝ってもらってるけど…、
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レン
今年は、いつもと違う誕生日になる。
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アイリ
……、『いつもと違う誕生日』?
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レン
そうだ。
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アイリ
…え、どういう意味?
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レン
……、
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今、ここから、この瞬間から、
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全てが180度変わってゆく。
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今まで貫いてきた<嘘>を取り払い、
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当たり前のように隔ててきた<兄と妹>という大きな壁を打ち崩す。
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レン
週末に、俺の誕生日プレゼントを買いに行かなくていい。
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アイリ
えっ…、どうして?
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アイリ
プレゼント、何が欲しいか決めたんでしょ?
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レン
…、
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アイリ
…お兄ちゃん?
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レン
…買いに行ったところで、
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レン
どこにも売ってない。
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アイリ
…え、
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アイリ
お店には売ってないものなの?
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アイリ
ネットで買わなきゃダメとか…?
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レン
そもそも、売り物じゃない。
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アイリ
えっ?
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レン
…俺が今、何よりも望んでいるものは…、
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一瞬言い淀んで、小さな呼気とともに高鳴る拍動を鎮めると、
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柔らかにアイリを見つめた。
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