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︙
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キザキ
…寝ちゃったみたい。
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ソウタ
みてーだな…。
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ソウタ
…なあ、サクヤくん。
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キザキ
なに?
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ソウタ
もしかして…、わざとだったのか?
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キザキ
…なにが?
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ソウタ
だからさ、
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ソウタ
わざと…、
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ソウタ
ユヅキにあんな意地悪な言い方したのか?
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キザキ
……
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なにも考えていないようで、ソウタは時々鋭いところを突いてくる。
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キザキ
…さあね。
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キザキ
もともと意地悪だよ、僕。
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ソウタ
……、
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合点がいかないといったようなその表情は今までにも何度か見たことがあるけど、
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僕は受け流すようにして本題に入った。
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キザキ
それよりもソウタ。
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キザキ
今日はこのままユヅキちゃんのこと泊めてあげてくれる?
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ソウタ
ああ、それは別にいいけど…、
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ソウタ
せっかく来たのに、連れて帰らねえの?
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キザキ
外、すごく寒いし。
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キザキ
おまけに今日は雨にも濡れて…、
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キザキ
無理に移動させて風邪引かせたくないから。
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キザキ
…あ。
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キザキ
もちろん、僕も一緒に泊まるからよろしく。
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ソウタ
え?
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キザキ
僕に布団はいらないから、
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キザキ
ユヅキちゃんはソウタのベッドに寝かせてあげて。
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キザキ
ソウタは、寝室にあるあの小さなソファーか、リビングに転がってでも寝れるでしょ?
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ソウタ
俺はそれでいいけど、
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ソウタ
サクヤくんもちゃんと寝ないとさ…、
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キザキ
僕は大丈夫。
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キザキ
朝まで起きて、ずっとユヅキちゃんのそばにいるから。
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ソウタ
……、
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想像通りに作り出してくれる
間 が楽しすぎて、 -
思わず短く笑ってしまいながらソウタを見遣る。
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キザキ
なに?
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ソウタ
え、ああ、いや、
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ソウタ
別に…。
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キザキ
僕は見張り番。
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キザキ
いくら幼馴染って言っても、ソウタも男の子だし。
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キザキ
普通に考えて、嫁入り前の女の子と二人きりにはさせられないよ。
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ソウタ
あ…なるほど、
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ソウタ
そういう意味で泊まるのか。
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キザキ
……君が一番納得しやすい理由でしょ。
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ソウタ
えっ?
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キザキ
ううん、なんでもないよ。
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そう。
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今はソウタが一番理解しやすい理由を述べる方が、何かとめんどくさくなくていい。
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そもそも、ユヅキちゃんを僕以外の男と二人きりにさせたくないから……だなんて。
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ただでさえ、ちょっぴり勘繰っているソウタに
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バカ正直に本音を告げて話をややこしく発展させることなく、
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今は穏やかに彼女の全てを守りたいから。
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キザキ
……
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泣き疲れた子どものように微睡む彼女に視線を移せば、
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まるで美しく飾られた人形のようで。
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キザキ
…器用だね、
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キザキ
三角座りしたままぐっすり眠るなんて。
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揶揄うように呟きながらも。
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僕はその裏側で、彼女を想う切ない痛みを感じながら、
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聞こえてくる安らかな寝息に安堵していた。
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・
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・
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・
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・
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ユヅキ
(…ッ、頭が…、痛い…)
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ふと目が覚めて、ゆっくりと起き上がる。
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話の途中から宥めるように響いたキザキさんの声に安心したのか、
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いつの間にか眠ってしまっていた。
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ユヅキ
…っ、いてて…、
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二日酔い確定の頭に手を当てながら周りを見澄ますと、
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私が眠っていたベッドの傍らでうつ伏せて眠るキザキさんと、
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壁際の小さなソファーで身を投げ出すように眠り込むソウタが視界に入った。
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ユヅキ
……
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どこまでも優しく接してくれたソウタや
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突然現れたキザキさんの昨晩の姿が次第に思い出されて、脳内で
画 になる。
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ユヅキ
…、
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特に、最初は叩き伏せてくるようなキザキさんの態度や言葉に、
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悲しくて苛立ちすら覚えたけれど。
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ユヅキ
(……)
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『…優しさの出し方って、人それぞれだから』
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以前話していたキザキさんの言葉が何気なく巡って、
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彼の叱咤も、
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私の強張った心をほぐすための優しさの思惑だったのだと感じた。
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それは遠回しなやり方だったけれど、
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今思い返しても胸がじわりと暖かなもので満たされていく。
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ユヅキ
……
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なぜ、キザキさんに弱った自分を見せたくないと思ったのか。
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おそらく、
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もしも彼の優しさに触れたら、
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きっと今までとは違ってくる自分の対応に困るから…、
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そんな自分をどう扱えばいいのか困惑するから…なのかもしれない。
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でも、結局は見事に救い出されて、
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今はただ、心の中は静やかな湖の畔のように穏やかだった。
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ユヅキ
(……、)
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ユヅキ
(二人には、迷惑かけちゃったな…)
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いずれ目を覚ます二人にどうやって詫びようかと熟考を重ねる。
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ユヅキ
……、
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やっぱりまずは、
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ありがとうの言葉と、
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いつもの元気な笑顔を見せることが一番なのかもしれない。
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そう思いながら、気持ちを奮い立たせて目元を引き締める。
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ユヅキ
(…いつまでも、凹んでられない)
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これから先にもたくさんの患者と出会い、命を繋ぐことを繰り返していく。
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自分が医師としての情熱と誇りを胸に、この仕事に邁進し続ける限り…、
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救えなかった命への深い想いを忘れることなく、
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それを新たな決意に変えて、強く胸に刻み込んで。
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また一つ、前進するために。
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ユヅキ
…、うん…、頑張ろう…!
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小さな呟きは、その中にまたさらなる強い信念を生み出した。
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キザキ
…、っ、
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キザキ
ん…、大丈夫だよ…、
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キザキ
ユヅキ、ちゃん…、
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ユヅキ
…!
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不意に、うつ伏せた姿勢をもぞもぞと正したキザキさんの口から零れた寝言に、
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またほんのりと癒される。
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ユヅキ
……
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長い雨も、
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長い夜も、
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きっと、頑張る人にはあり得ない。
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必ず、朝はやって来る。
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カーテンの隙間から漏れる眩しくも優しい朝日は、
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一つの苦しみを乗り越えた私を見守るように照らしてくれていた。
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