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ユヅキ
助け…られなかった…っ、
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ユヅキ
絶対に、助けたかったのに…、っ、
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キザキ
……
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ソウタ
…、
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ユヅキ
まだ7歳の…小さい体で…、
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ユヅキ
背だって、これからももっと伸びただろうし…、
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ユヅキ
友達とだって、いっぱい遊びたかったはずなのに…、っ…、
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キザキ
……
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ユヅキ
たくさん…、あの子には未来があったのにっ…、
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ユヅキ
それなのに、私…っ、
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ユヅキ
助けてあげられなかった…。
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キザキ
……
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ユヅキ
なんで非力な自分が医者なんかやってるのか…、
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ユヅキ
私なんかがこれからも医者でいていいのか…、もう、考えてると辛くて…っ、
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涙を拭う手も震えて止まらない。
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初めて経験するこの想いをありのまま紡ぎ出せば、少しでも何かが変わるのだろうか…。
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それすらも見い出せない迷路のように入り組んだ思考の中で、
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震える唇はひとりでに言葉を並べてゆく。
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ユヅキ
救命医なんかやってれば、こういった悲しくて辛いことを避けることなんかできないってことも、
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ユヅキ
頭の中では理解しているつもりです…。
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ユヅキ
でも…、
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ユヅキ
どうやって乗り越えたらいいのか…、もう、分からなくて…。
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ソウタ
…ユヅキ…。
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ソウタの手が優しく私の頭を撫でる。
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繊細なその動きからは、
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内心で憂いてくれている彼の心が、十分に伝わるようだった。
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ユヅキ
…っ、…、
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与えられた暖かさに胸が熱く、涙を止めることができずにいながらも、
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心に渦巻いていた大きな鉛のようなものを吐露できたことに、ほうっと小さく息を吐き出したとき。
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キザキ
…やっと、ちゃんと言えた。
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ユヅキ
っ…、?
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ふわりと、さっきとはまるで違う、とても柔らかな声。
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引き込まれるように声色を辿った先には、
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深い優しさを滲ませたキザキさんが切なげに微笑んでいた。
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キザキ
せっかくここを頼って来たのに…ソウタにそのことを話さずにいたでしょ?
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ユヅキ
…え…、
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キザキ
そのままずっと何も言わずに心に留めていたら、
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キザキ
ユヅキちゃん、おかしくなっちゃうよ?
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ユヅキ
——…、
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戸惑う私の前に静かに歩み寄ったキザキさんは、
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ソウタの横に並ぶようにして膝を折ると小首を傾げる。
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キザキ
バカな子のこと、
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キザキ
ちゃんと見に来て良かった…、
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キザキ
絶対に一人で苦しんでると思ったから。
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ユヅキ
…!
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キザキ
電話でソウタから大まかなことを聞いて、
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キザキ
きっと病院で何かあったんだなって、すぐに思ったよ。
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キザキ
大変だったと思う…、よく頑張ったね、ユヅキちゃん。
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ユヅキ
…――っ、
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降り注ぐ言葉が、今度は私を優しく包み込む。
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ますます溢れる涙と咽び泣く自分を隠すように、三角座りの膝上に顔をうずめた。
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キザキ
僕ね、思うんだ。
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キザキ
お医者さんって、みんなの命を最大限に引き伸ばしてくれるのが仕事なんだろうけど、
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キザキ
その人に与えられた命数だけは、どうにもできないんだって。
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キザキ
やっぱり、神様だけだよね…それができるのは。
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ユヅキ
…、
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キザキ
すごく助けたかったっていう気持ち…分かるよ、
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キザキ
ユヅキちゃんだもん、きっと人一倍そう思ったよね?
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キザキ
そんなユヅキちゃんだから、できる限りのことをしてあげたと思う。
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ユヅキ
——…
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キザキ
ユヅキちゃんが担当してくれたから…、
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キザキ
その子の命を一生懸命救おうと頑張ってくれたから、
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キザキ
家族の人たちはキミのその姿を見て、
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キザキ
辛くても子どもの死を受け入れることができたんじゃないかな…。
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キザキ
ユヅキちゃんの医師としての姿に、
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キザキ
前を向く力をもらえたんじゃないかなって、僕は思うよ。
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ユヅキ
……、
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キザキ
ユヅキちゃんが担当してくれて良かったって、
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キザキ
僕がその人たちなら、絶対にそう思う。
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ユヅキ
………
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キザキさんの耳心地な低音はどこまでも優しくて、
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萎縮し、凍えていた私の心を徐々に解かしてゆく。
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ユヅキ
…――――
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…いつの間にか。
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膝を抱えて泣きじゃくっていた私は、
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踏み迷う路程からようやく抜け出し落ち着きを取り戻した迷子のように、
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嗚咽を小さな寝息に変えて、深い眠りに落ちていた。
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