Vol. 14 My All ・8

  • 私がアメリカに渡ってから、3ヶ月が過ぎようとしていた。

  • 大学の研究室で黙々と、時折議論を交えながら研究に取り組んでいる。

  • 自宅アパートと大学の往復ばかりで、同じ毎日の繰り返しといえるが、

  • それでも没頭したいことに打ち込めているせいか、充実した日々を過ごせていた。

  • キザキさんとは、毎日のように連絡を取り合っている。

  • 私が日本を発ってから、彼も仕事に邁進しているようだ。

  • 多忙である様子から、体調を崩さないか心配でたまらないが、

  • 通話越しの弾んだ声を聴いていると、必要以上の危惧は無用だと感じた。

  • ユヅキ

    ……

  • あの日、互いの心が重なって、

  • 二人で朝までいろんなことを語り明かした。

  • 過去の思い出や、未来を見据えた会話はとても楽しく、

  • けれど、離れ離れになることにとてつもなく寂しさを覚えた。

  • もちろん、私はこの仕事が好きだから、今の選択を後悔していない。

  • でも…、

  • ユヅキ

    …やっぱり、会いたいな…。

  • ボルチモアは、雪がちらつき始めている。

  • ダウンコートのポケットから手袋を取り出して両手にはめると、

  • グレーに広がる冬空を見上げた。

  • ユヅキ

    (…日本の空は、今、どんなだろう…)

  • ふと、そんなことを思う。

  • この空が続くずっと向こう側で、きっとキザキさんも元気に頑張っている。

  • ユヅキ

    ……私も負けてられないな。

  • 次に会える日を心待ちに、そして、そのことを励みにしながら頑張っていこう。

  • そう気持ちを奮い立たせた。

  • ユヅキ

    ……

  • 今日はいつもより早めに研究室を出ることが出来たために、まだ日も明るい。

  • 大学の正門までのんびりと歩を進めながら、ショルダーバッグを肩に掛け直して腕時計に目を遣った。

  • ユヅキ

    いつもより早く終わったし…、

  • ユヅキ

    久しぶりに外食でもしようかな?

  • 今日も一日お疲れさま。

  • ユヅキ

    …っ、!?

  • 門に差し掛かったところで耳に届いた声色をすぐさま辿る。

  • ユヅキ

    (…え、嘘…、)

  • いつも電話越しには聴けている声。

  • でもずっと、

  • すぐそばで聴きたいと思っていた、大好きな人の声。

  • キザキ

    やっぱり、こっちはずいぶん寒いね。

  • ユヅキ

    キ…、キザキ、さん…!?

  • ユヅキ

    え、あのっ、

  • ユヅキ

    ホンモノ…ですよね…?

  • キザキ

    もちろん。

  • 煉瓦張りの壁の横から一歩踏み出して、キザキさんは私の顔を覗き込む。

  • キザキ

    我慢できなくて、会いに来ちゃった。

  • ユヅキ

    …びっくりしました…、

  • ユヅキ

    まさか会いに来てくれるなんて思ってなかったので…。

  • キザキ

    この3ヶ月間、休みなしで働いたからね。

  • キザキ

    ご褒美に、2週間のお休みもらったんだ。

  • ユヅキ

    …もしかして、

  • ユヅキ

    ずっと忙しく仕事をしてた理由って…、

  • キザキ

    まとまった休暇を取るために、仕事を調整してたんだ。

  • キザキ

    ユヅキちゃんも僕に会えなくて、そろそろ限界に近かったでしょ?

  • ユヅキ

    …ッ、

  • どこか余裕すら感じさせる言葉に、一気に頬が熱くなる。

  • やっぱり、最初から色々と見透かされている。

  • 悔しいけど、一番私のことを知っている人。

  • ユヅキ

    ……ビンゴ。

  • キザキ

    当てたご褒美に、早速抱きしめてもいい?

  • ユヅキ

    え、いやあの、

  • ユヅキ

    ここは人通りが…———あっ…、!

  • キザキ

    …ずっとこうしたくて、うずうずしてた…。

  • ユヅキ

    っ…、

  • 有無を言わさず強く抱き込んでくるたくましい体に、身も心もほわほわと温まっていく。

  • ユヅキ

    ……

  • キザキ

    …最高の抱き心地。

  • ユヅキ

    …最高の抱かれ心地、です…。

  • キザキ

    …ね、ユヅキちゃん、キスしてもいい?

  • ユヅキ

    そ、それは、ここではダメですっ…!

  • キザキ

    えー、残念。

  • 茶目っ気たっぷりに唇を窄めたあと、柔らかに微笑んで静かに身を離す。

  • 私の頭をさわさわと優しく撫でる手に、胸奥がきゅんと高鳴った。

  • キザキ

    そういうシャイな反応をするユヅキちゃんが可愛すぎて、

  • キザキ

    つい困らせることを言っちゃう。

  • ユヅキ

    …もう、お手柔らかにお願いしますよ…。

  • キザキ

    ふふ。

  • ユヅキ

    …、

  • 私はこの人に、これから先もずっと恋焦がれていくのだろう。

  • キザキ

    ユヅキちゃん、大好き。

  • ユヅキ

    私も、好きです…

  • ユヅキ

    (……大好き)

  • それは、初めての恋で。

  • 紡いだ先には、

  • きっと、永遠の愛になる。

  • *

  • *

  • *

  • Fin.

  • Special Thanks to … Dear Readers. 

  • 一恋(ichikoi)END

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