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私がアメリカに渡ってから、3ヶ月が過ぎようとしていた。
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大学の研究室で黙々と、時折議論を交えながら研究に取り組んでいる。
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自宅アパートと大学の往復ばかりで、同じ毎日の繰り返しといえるが、
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それでも没頭したいことに打ち込めているせいか、充実した日々を過ごせていた。
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キザキさんとは、毎日のように連絡を取り合っている。
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私が日本を発ってから、彼も仕事に邁進しているようだ。
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多忙である様子から、体調を崩さないか心配でたまらないが、
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通話越しの弾んだ声を聴いていると、必要以上の危惧は無用だと感じた。
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ユヅキ
……
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あの日、互いの心が重なって、
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二人で朝までいろんなことを語り明かした。
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過去の思い出や、未来を見据えた会話はとても楽しく、
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けれど、離れ離れになることにとてつもなく寂しさを覚えた。
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もちろん、私はこの仕事が好きだから、今の選択を後悔していない。
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でも…、
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ユヅキ
…やっぱり、会いたいな…。
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ボルチモアは、雪がちらつき始めている。
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ダウンコートのポケットから手袋を取り出して両手にはめると、
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グレーに広がる冬空を見上げた。
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ユヅキ
(…日本の空は、今、どんなだろう…)
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ふと、そんなことを思う。
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この空が続くずっと向こう側で、きっとキザキさんも元気に頑張っている。
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ユヅキ
……私も負けてられないな。
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次に会える日を心待ちに、そして、そのことを励みにしながら頑張っていこう。
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そう気持ちを奮い立たせた。
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ユヅキ
……
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今日はいつもより早めに研究室を出ることが出来たために、まだ日も明るい。
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大学の正門までのんびりと歩を進めながら、ショルダーバッグを肩に掛け直して腕時計に目を遣った。
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ユヅキ
いつもより早く終わったし…、
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ユヅキ
久しぶりに外食でもしようかな?
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今日も一日お疲れさま。
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ユヅキ
…っ、!?
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門に差し掛かったところで耳に届いた声色をすぐさま辿る。
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ユヅキ
(…え、嘘…、)
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いつも電話越しには聴けている声。
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でもずっと、
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すぐそばで聴きたいと思っていた、大好きな人の声。
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キザキ
やっぱり、こっちはずいぶん寒いね。
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ユヅキ
キ…、キザキ、さん…!?
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ユヅキ
え、あのっ、
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ユヅキ
ホンモノ…ですよね…?
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キザキ
もちろん。
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煉瓦張りの壁の横から一歩踏み出して、キザキさんは私の顔を覗き込む。
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キザキ
我慢できなくて、会いに来ちゃった。
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ユヅキ
…びっくりしました…、
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ユヅキ
まさか会いに来てくれるなんて思ってなかったので…。
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キザキ
この3ヶ月間、休みなしで働いたからね。
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キザキ
ご褒美に、2週間のお休みもらったんだ。
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ユヅキ
…もしかして、
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ユヅキ
ずっと忙しく仕事をしてた理由って…、
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キザキ
まとまった休暇を取るために、仕事を調整してたんだ。
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キザキ
ユヅキちゃんも僕に会えなくて、そろそろ限界に近かったでしょ?
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ユヅキ
…ッ、
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どこか余裕すら感じさせる言葉に、一気に頬が熱くなる。
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やっぱり、最初から色々と見透かされている。
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悔しいけど、一番私のことを知っている人。
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ユヅキ
……ビンゴ。
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キザキ
当てたご褒美に、早速抱きしめてもいい?
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ユヅキ
え、いやあの、
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ユヅキ
ここは人通りが…———あっ…、!
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キザキ
…ずっとこうしたくて、うずうずしてた…。
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ユヅキ
っ…、
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有無を言わさず強く抱き込んでくるたくましい体に、身も心もほわほわと温まっていく。
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ユヅキ
……
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キザキ
…最高の抱き心地。
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ユヅキ
…最高の抱かれ心地、です…。
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キザキ
…ね、ユヅキちゃん、キスしてもいい?
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ユヅキ
そ、それは、ここではダメですっ…!
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キザキ
えー、残念。
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茶目っ気たっぷりに唇を窄めたあと、柔らかに微笑んで静かに身を離す。
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私の頭をさわさわと優しく撫でる手に、胸奥がきゅんと高鳴った。
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キザキ
そういうシャイな反応をするユヅキちゃんが可愛すぎて、
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キザキ
つい困らせることを言っちゃう。
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ユヅキ
…もう、お手柔らかにお願いしますよ…。
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キザキ
ふふ。
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ユヅキ
…、
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私はこの人に、これから先もずっと恋焦がれていくのだろう。
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キザキ
ユヅキちゃん、大好き。
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ユヅキ
私も、好きです…
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ユヅキ
(……大好き)
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︙
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それは、初めての恋で。
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紡いだ先には、
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きっと、永遠の愛になる。
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*
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*
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Fin.
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Special Thanks to … Dear Readers.
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一恋(ichikoi)END
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