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キザキさんがうちの居候じゃなくなる日も、残すところあとわずか。
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彼がこの家を出た2日後に、私もアメリカに発つ。
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離れ離れになってしまう前に、彼にこの想いを伝える。
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伝えないと、きっと後悔するから。
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ユヅキ
……、
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一つ、深呼吸をして。
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キザキさんの部屋のドアを軽くノックした。
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キザキ
はーい、どうぞ?
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ユヅキ
すみません、お邪魔します…。
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キザキ
お邪魔なんかじゃないよ。
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キザキ
ユヅキちゃんなら、いつでも大歓迎。
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机でノートパソコンに向かうキザキさんは、回転チェアを静かにくるりとさせてこちらを振り向く。
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三日月のように細めた瞳は、嬉しそうに私を見つめた。
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キザキ
珍しいね、ユヅキちゃんから僕の部屋に来るなんて。
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キザキ
僕がお願いして来てもらったことはあるけど…自分から来るのって初めてじゃない?
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ユヅキ
…そうでしたっけ?
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キザキ
そうだよ。
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キザキ
事務所にはどんどん遊びに来てね。
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ユヅキ
でも、キザキさん、調査で外にいることのほうが多いんじゃないですか?
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キザキ
あ。それもそうだね。
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キザキ
せっかくのタイミングを無駄にしたくないから、来るときはまず僕に連絡して?
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ユヅキ
……そのときは、そうしますね。
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ユヅキ
(しばらくは、行きたくても行けなくなるけど…)
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渡米の話をいつ切り出すか考えながら、少しばかり曖昧に微笑んで室内を見渡した。
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ユヅキ
部屋の中も、スッキリ片付きましたね。
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キザキ
見ての通り、あとはちょっとした身の回りの物と僕が事務所に行くだけ。
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ユヅキ
事務所もずいぶん綺麗に片付いてましたもんね。
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キザキ
一昨日から、昼間はあっちで仕事できるようになったよ。
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キザキ
持ち帰った仕事をこの部屋で消化するのも、あと少しの間かな。
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ユヅキ
…そうですか。
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キザキ
あ、そうそう。
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キザキ
この椅子と机がすごく使いやすくてね、
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キザキ
それを知った藤沢さんが『良かったら持って行きなさい』って言ってくれたから、
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キザキ
最初はお言葉に甘えてそうしようかなと思ったんだけど…、
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キザキ
この間、ここに落書きを発見しちゃって。
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ふふ…と、優しげに笑ったキザキさんは、机の側面を長い指先でポンポンと弾く。
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ユヅキ
…落書き?
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キザキ
うん。
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キザキ
コレがなかったら、ありがたく譲ってもらってたんだけどね。
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ユヅキ
…、
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ユヅキ
(そんなに目立つ落書きなのかな…?)
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キザキ
ほら、ココ。
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ユヅキ
……
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キザキさんの指先が指し示す落書きとやらを目視すべく、
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訝りながら机の側に歩み寄った。
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