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ユヅキ
マユキ、元気そうだね。
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マユキ
うん!最近は、あまり体調も悪くならないから嬉しいの。
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マユキ
ユヅキも元気そうでよかった。
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昔から変わらない小鈴が鳴るような可愛らしい声を奏でてで、マユキは柔らかに微笑んだ。
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直接会って話がしたいと電話があってから数日後、
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結局、互いの休みの日に都合が付かなかった私のために、マユキは勤務先まで足を運んでくれた。
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私が渡米する前にどうしても話しておきたいことがあると、マユキはそのときの電話で話していた。
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ユヅキ
……
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そして私も、マユキに伝えなければならないことがある。
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マユキ
仕事、忙しい?
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ユヅキ
んー…急患は少ないけど、外来はいつものように混んだかな。
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マユキ
ごめんね、貴重な休憩時間なのにお邪魔して…。
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ユヅキ
ううん、全然。来てくれてありがとう。
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開放感のある大きなFIX窓に面した休憩エリアで、マユキと二人、木製のベンチに腰を下ろし、
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それぞれが売店で購入したホットドリンクを飲む。
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マユキ
…わ、このレモンティーおいしい!
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ユヅキ
今度、私もそれ買ってみようかな。
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マユキ
おすすめだよー!
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ユヅキ
売店の人が良い宣伝をしてくれたって、喜ぶよ。
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マユキ
ふふ、
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マユキ
良いものは広めなきゃね。
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ユヅキ
そうだね。
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マユキの明るい笑顔に微笑み返して、窓辺の広い風景に目を遣った。
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晴れていれば十分な採光があり、今のような寒い冬にはそれなりの暖が取れるが、
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あいにく今日は曇り空。
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ユヅキ
寒くない?
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マユキ
うん、大丈夫。
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ユヅキ
そっか…、良かった。
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マユキ
……
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マユキ
……ね、ユヅキ。
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ユヅキ
ん?
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マユキ
この間の電話で、どうしてもユヅキに直接会って、話しておきたいことがあるって言ったでしょ?
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ユヅキ
…うん。
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マユキ
そのことなんだけどね…、
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ユヅキ
うん。
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マユキ
実は私…、
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マユキ
キザキさんに振られちゃったんだ。
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ユヅキ
っ…!?
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たった今、口に含んだばかりのコーヒーを、いつかの夜みたいに吹き出しそうになる。
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ユヅキ
っ、…、
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ユヅキ
(『振られちゃった』…!?)
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何でもないことのようにマユキの口からサラッと滑り出た、失恋の言葉。
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正直、他人事のような彼女のいきなりの発言に頭の中が混乱する。
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キザキさんの自分への感情を知らなかったわけじゃないけど、
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すでにそんな話になっていたとは思ってもみなくて。
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マユキ
大丈夫!?…はい、これ使って?
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ユヅキ
…ご、ごめん、ありがと…。
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かろうじて白衣を汚すことなくコーヒーを飲み下せたが、
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機敏な所作で差し出されたハンカチを言われるままに受け取る。
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ユヅキ
(…振られたって、いつの間にそんなことに…)
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疑問符の答えを回収したくて口を開こうとしたとき、
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マユキが穏やかにその真相を並べ始めた。
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マユキ
ごめんね。
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マユキ
本当はもう少し前にキザキさんから言われてたことだったんだけど、なかなか言い出せなくて…。
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マユキ
でも、もう大丈夫。
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ユヅキ
…『もう大丈夫』って、
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ユヅキ
キザキさんのことは、もう諦めちゃったの?
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マユキ
うん。
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マユキ
少しだけ時間がかかっちゃったけど、今はもう全然平気だよ。
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ユヅキ
…、
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マユキ
ユヅキ、そんな顔しないで…?
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私の顔が泣き出しそうに歪んだからだろう、マユキが切なげに小首を傾げた。
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ユヅキ
だって、さ…、
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マユキ
…実はね、
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マユキ
ユヅキに、キザキさんと直接連絡を取るように言われてから、勇気を振り絞って一度自分から連絡したんだけど、
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マユキ
そのときに、『僕も話がある』って言われて。
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ユヅキ
……
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マユキ
『僕にはとても好きな人がいるから、これ以上他の女の子と出かけることはできない』って言われたんだ。
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ユヅキ
———
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マユキ
『自分の気持ちに嘘はつきたくないから、ごめんね』って。
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ユヅキ
……
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ユヅキ
…ちょっと待って、
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ユヅキ
じゃあ、その話をしてから、
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ユヅキ
もうずっと、キザキさんとは会ってなかったってこと?
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マユキ
うん。
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マユキ
会ってないし、連絡ももう取ってないよ。
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ユヅキ
…、
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ユヅキ
そう、なんだ…。
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動揺で揺れる視線と低い声色を下方に落とす。
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今日、自分のキザキさんへの気持ちをマユキに打ち明ける…
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そう心に決めていた。
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<好き>が至大に膨らんで、もう自分の心を偽りたくないという想いから生まれた決意。
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だけど、その先にある、両想いを叶えることまでは考えていなかったから、
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恋を失ったマユキの気持ちを推し量ると辛くて、一瞬、思考回路の稼働が停止した。
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