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キザキ
…ほんとに?
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ユヅキ
ほんとです。
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ユヅキ
それなら家に帰って、体を休めてくれますね?
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キザキ
うん。
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キザキ
でも、もしもちゃんと傍にいてくれなかったら…、
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キザキ
水風呂にでも入って悪化させるからね?
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ユヅキ
そ…そんな怖いこと言わないでくださいっ。
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ユヅキ
ちゃんと傍にいますから。
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キザキ
約束だよ?
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ユヅキ
約束です。
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満足げに口角を引き上げたキザキさんに向けて、やれやれと微笑みかけたとき、
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タイムアウトを告げるかのようにスマホの着信音が鳴り響いた。
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ユヅキ
あっ、すみません、ちょっと出ますね。
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ユヅキ
……、
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鞄の中に手を入れて弄り、取り出した端末の着信画面を目にして一瞬固まる。
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ユヅキ
———
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【 舞 雪 】
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<RRRR——>
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ユヅキ
…、
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*
<RRRR――…>
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キザキ
…?
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キザキ
出なくていいの?
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ユヅキ
…、いえ、出ます…、
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柔らかなアルカイックスマイルの裏で、意を決したように通知をスワイプさせた。
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マユキ
《…あ、ユヅキ?》
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マユキ
《今、大丈夫?》
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ユヅキ
うん、少しだけなら…、どうしたの?
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マユキ
《忙しいのにごめんね》
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マユキ
《あのね、さっき買い物に出てたんだけど、お店で偶然ユヅキのお母さんに会って…、》
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マユキ
《ユヅキ、近いうちにアメリカに行くって本当?》
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ユヅキ
……、
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ユヅキ
…うん。
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マユキ
《2、3年は日本から離れるって聞いたんだけど…そうなの?》
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ユヅキ
うん、まあ…、そうなんだよね。
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マユキ
《あのね、ユヅキ…———》
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マユキは、私に大事な話があり、
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渡米する前にどうしても直接会いたいのだと、どこか切羽詰まったように続けた。
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できれば、今すぐにでも都合を付けて、その話とやらを聞いてあげたい。
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けれど、
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キザキさんの前で、これ以上渡米に関することを口に出すことになったら困るから。
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ユヅキ
えっと、ごめん、
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ユヅキ
予定を確認しないと分からなくて…、
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ユヅキ
後でまた折り返すから待ってくれる?
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把握しきっている空白の日程を敢えて濁し、手短に通話を終わらせた。
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ユヅキ
……すみません、お待たせして。
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ユヅキ
じゃ、帰りましょうか。
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キザキ
電話、大丈夫?
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ユヅキ
大丈夫ですよ。
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ユヅキ
病人を長く放置できませんからね。
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ちょっぴり冗談ぽく言うと、キザキさんは立ち上がりながら小気味よく言葉を打ち返した。
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キザキ
でも、ユヅキちゃん、
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キザキ
前に病人の僕を置いて同窓会に行ったよね?
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ユヅキ
あのときは…、キザキさんは家に居ましたし。
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ユヅキ
あのときも、ちゃんと心配してましたよ?
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キザキ
…ほんとかなあ。
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ユヅキ
二次会へは行かずに、早めに帰ってきたじゃないですか。
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キザキ
だってそれは、アイスを食べたかったからでしょ?
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ユヅキ
あれは、キザキさんのため——…っ、
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ユヅキ
いや、なんでもないですっ。
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キザキ
やっぱりあのとき、
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キザキ
僕のためにアイスを買って帰って来てくれたんだね。
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ユヅキ
…、べ、別に…、
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キザキ
改めて、ありがとう、ユヅキちゃん。
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あの日の早々の帰宅の意味を強く否定できない私を前に、
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口端を上げた小さな笑みを浮かべたキザキさんだったが、
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キザキ
…っ、あ、れ…?
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余裕めいた足取りで一歩踏み出すも、
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次の瞬間、ぐらりと上体が揺れた。
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