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ユヅキ
キザキさん。
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キザキ
ん、なに?
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ユヅキ
はい、握手。
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キザキ
…うん?
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いきなり手を突き出して握手を求める私に、
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キザキさんはきょとんと瞬きをして右手をこちらに伸ばす。
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キザキ
どうしたの?
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ユヅキ
……
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返答することなく、ぎゅっと絡め取るようにキザキさんの手を握った。
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キザキ
え…、ユヅキちゃん?
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ユヅキ
……
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ユヅキ
…あったかい。
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キザキ
ああ、僕の手?
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キザキ
そうなんだよね、寒い冬にはなかなか重宝するでしょ?
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ユヅキ
違う、熱い…、
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キザキ
……え。
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ユヅキ
熱いですよ、キザキさんっ。
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目元を引き締めた険しい表情で前に身を乗り出すと、途端に狼狽えたキザキさんの額に手のひらを当てる。
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ユヅキ
やっぱり…、熱がありますね!?
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近づいてよく見ると、顔だって赤い。
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キザキ
…、
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キザキ
バレちゃった…。
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キザキ
気付かれないように、ユヅキちゃんの隣に座るのを我慢したのに。
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こんなにすぐバレるなら、引っ付いて座れば良かった…と、
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キザキさんは軽く頬を膨らませてむくれて見せた。
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ユヅキ
何をのんきなこと言ってるんですか、まったくもう…。
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キザキ
さすがお医者さん、鋭いね。
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ユヅキ
医者でなくても気付きますよっ。
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ユヅキ
とにかく、もう帰りましょう、うちの病院で診察しますから。
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キザキ
大丈夫だよ、診察なら、ユヅキちゃんのおうちの病院でもう診てもらったから。
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キザキ
昨日の夕方から少し熱があって…疲れからくる熱だって。
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キザキ
移さないから安心して?
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ユヅキ
移すとか移さないとかの話をしてるわけじゃありません。
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ユヅキ
そもそも移ったところで気にしません。
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キザキ
…、
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ユヅキ
とにかく帰りましょう、疲れの熱なら尚更、すぐにでも横になったほうがいいです。
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キザキ
……ねえ。
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ユヅキ
なんですか?
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キザキ
移っても気にしない、みたいなことを言ってるけど…、
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キザキ
もしも僕のこの熱が移るようなものだったら、
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キザキ
ユヅキちゃん、もらってくれるの?
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ユヅキ
もらいますよ、キザキさんの病症なら。
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キザキ
僕の病症なら……って、ほんとに?
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ユヅキ
あっ、と…、
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ユヅキ
まあ、それはなんていうか…、
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ユヅキ
医師として、ですかね…。
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キザキ
…あは、
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キザキ
そうだとしても嬉しい。
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ユヅキ
……、それはともかく、早く帰りましょう。
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キザキ
だから、帰らなくても大丈夫だってば。
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ユヅキ
ダメですよ、とても大丈夫だとは思えません。
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勢いよく立ち上がった私とは正反対に、キザキさんはソファーに背を沈めて表情を曇らせた。
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キザキ
嫌。
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キザキ
帰りたくない。
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ユヅキ
もう、なんでそんな———
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キザキ
帰ったら、ユヅキちゃんとこういった時間をなかなか過ごせないでしょ?
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ユヅキ
…、
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キザキ
家に帰ったら、僕たちすれ違ってばかりじゃない。
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キザキ
二人でこうして向き合って話すこともほとんどないのに…。
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ユヅキ
……
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キザキ
だから、嫌。帰らないから。
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ユヅキ
そんなわがまま、言わないでくださいよ…。
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キザキ
もともとわがままだもん、僕。
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開き直った様子で軽く唇を窄めた後、
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一歩も引かないといった素振りでキザキさんは視線を横に流す。
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ユヅキ
……、
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ユヅキ
(困った…、キザキさんはこうなってしまうと、なかなか折れてくれない…)
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ユヅキ
……
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ユヅキ
…、
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折れてくれないなら、こっちから折り合いをつけるしかない。
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ユヅキ
分かりました。
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ユヅキ
じゃあ、家に帰ってからも、時間の許す限り傍にいますから。
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どうしたものかと考えあぐねた結果の決断。
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幼い子どもを窘めるように優しく見下ろした。
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