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真新しいクロス張りの壁に視線を投じながら、
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見た目の重量感に比例したソファーの心地よさに身を委ねる。
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広い窓際で穏やかな日光を浴びる観葉植物は、改築祝いにと私の父が送ったもので、
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一際目立つ場所に配置されたそれに、キザキさんの配慮を感じた。
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きちんと整理された事務所内をくるりと見渡せば、
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片付けに奮闘した彼の姿が垣間見えた気がして、眉が八の字に下がる。
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ユヅキ
(…無理しなくていいって言ったのに…)
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ここまで一人で片づけたとなると、なかなかの労力を費やしたに違いない。
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目の前の埃一つないガラス製のセンターテーブルを見て、そっと溜め息をついた。
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まだスタッフですら足を踏み入れていないというこの場所に、
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部外者である自分が真っ先に入り込んでもいいのだろうかと改めて恐縮していると、
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キザキ
ごめんね、ユヅキちゃん、待たせちゃって。
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依頼主との電話のために席を外していたキザキさんが、通話を終えて現れた。
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ユヅキ
いえ、気にしないでください。
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キザキ
ありがと。
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キザキ
…あ。何か飲む?
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ユヅキ
大丈夫です。
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ユヅキ
それより、少し座りませんか?
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ユヅキ
事務所に来てからずっと、何件もの依頼主さんとの電話で…、
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ユヅキ
忙しいのは分かりますが、少し休憩しないとさすがに
保 ちませんよ? -
キザキ
…ん、それもそうだね。
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キザキ
じゃあ、早速、ユヅキちゃんの隣に———…
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ユヅキ
えっ、
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キザキ
——と、言いたいところだけど、
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キザキ
今日はおとなしくこっちに座ろうかな。
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ユヅキ
…、
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ユヅキ
(敏感に反応しすぎだって…自分、)
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静かな笑みを湛えながら私と向き合う形でソファーに腰を下ろしたキザキさんを、こっそり上目遣いに窺って沈黙する。
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距離の近さを想像して思わず顔を赤らめてしまった自分が恥ずかしくて、
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さっきも眺めていた室内を、さも初見であるかのように物珍しそうに見澄ました。
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キザキ
…はぁ…。
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キザキ
やっと落ち着いてきた感じかな。
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ユヅキ
ほんとにお疲れさまでした。
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ユヅキ
すごく素敵な事務所ですね。
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キザキ
ありがとう。
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キザキ
ユヅキちゃんにそう言ってもらえると、一番嬉しいよ。
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ユヅキ
スタッフさんたちもこんな素敵な事務所で働けて、きっと喜びますよ。
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キザキ
そう?
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キザキ
あの子たちがどう思うかは興味ないから別にいいけど。
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ユヅキ
またそんな、素っ気ないこと言って…。
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キザキ
いいの。
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苦笑を向けた私を柔く制するように微笑んで、キザキさんはゆったりとソファーに背を預けた。
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キザキ
…、ふぅ…、
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キザキ
今夜はぐっすり眠れそうかな。
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ユヅキ
(…、あれ…?)
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寛ぐ体に何気なく吐息と言葉を添えたキザキさんは、パッと見た感じいつもと何ら変わりはない。
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けれど、
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不意にちらつく微々たる表情の変化に、なんとなく違和感を覚えた。
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ユヅキ
……
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気付かれないように注視していると、
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どこか病苦を思わせるような倦怠の色が浮かんでくる。
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ユヅキ
(もしかして、これは…)
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懸命に隠し通そうとしているモノの正体に勘付いて、キザキさんを真っ直ぐに見据えた。
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