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今日は、キザキさんの新しい事務所にお邪魔する日。
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私が日本で過ごすことができるのも、あと2週間程度になった。
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ここ数日の間で、身の回りの必需品などはスーツケースに詰め込んだ。
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アメリカで私が暮らす予定のアパートはワンルームだが、
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日本のそれよりもずっと広く、しかも居抜きであるために家具など運搬の必要もなく、
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まるで、ぶらりと一人旅にでも出る身軽さでボルチモアへと向かう。
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もちろん、キザキさんは、近いうちに私が渡米することを知らない。
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両親にも、湿っぽくなるのが嫌だからという理由を見繕って、
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彼には知らせないままでいて欲しいと頼んである。
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キザキさんには何も言わずに日本を離れたほうが、気持ちも楽だったりするから。
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…マユキの気持ちを考えると、
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やっぱりどうしても、自分のためのハッピーエンドを引き寄せる気にはまだなれなくて。
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ユヅキ
……
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愛が欲しい自分と、
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その愛を諦めようとする自分。
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いい加減どっちを選ぶのかと、二人の自分からの挟撃に強い焦燥感を覚える。
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でも。
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ユヅキ
……はぁ…、
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ユヅキ
もう、考えるのはやめよう…。
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どうせ、もうすぐアメリカに発つ。
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向こうに行きさえすれば、
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気持ちの切り替えにもたつく自分を目の当たりにすることも、次第になくなっていくはず。
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ユヅキ
(…仕事に専念するし、きっと大丈夫)
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目を背けてはいけない事柄だと知りながらも、
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まるで逃れるように、渡米までの日々を指折り数える自分がいた。
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