Vol. 13 ピリオド. ・1

  • 今日は、キザキさんの新しい事務所にお邪魔する日。

  • 私が日本で過ごすことができるのも、あと2週間程度になった。

  • ここ数日の間で、身の回りの必需品などはスーツケースに詰め込んだ。

  • アメリカで私が暮らす予定のアパートはワンルームだが、

  • 日本のそれよりもずっと広く、しかも居抜きであるために家具など運搬の必要もなく、

  • まるで、ぶらりと一人旅にでも出る身軽さでボルチモアへと向かう。

  • もちろん、キザキさんは、近いうちに私が渡米することを知らない。

  • 両親にも、湿っぽくなるのが嫌だからという理由を見繕って、

  • 彼には知らせないままでいて欲しいと頼んである。

  • キザキさんには何も言わずに日本を離れたほうが、気持ちも楽だったりするから。

  • …マユキの気持ちを考えると、

  • やっぱりどうしても、自分のためのハッピーエンドを引き寄せる気にはまだなれなくて。

  • ユヅキ

    ……

  • 愛が欲しい自分と、

  • その愛を諦めようとする自分。

  • いい加減どっちを選ぶのかと、二人の自分からの挟撃に強い焦燥感を覚える。

  • でも。

  • ユヅキ

    ……はぁ…、

  • ユヅキ

    もう、考えるのはやめよう…。

  • どうせ、もうすぐアメリカに発つ。

  • 向こうに行きさえすれば、

  • 気持ちの切り替えにもたつく自分を目の当たりにすることも、次第になくなっていくはず。

  • ユヅキ

    (…仕事に専念するし、きっと大丈夫)

  • 目を背けてはいけない事柄だと知りながらも、

  • まるで逃れるように、渡米までの日々を指折り数える自分がいた。

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