Vol. 12　消せない想い　・4 [フォレストページ＋] 夢小説対応・簡単オシャレな創作サイト作成サービス

イシバ

何があったのかは知らないが、

イシバ

おまえはもう少し、自分というものを優先すべきだ。

ユヅキ

…え？

ユヅキ

いつも優先してるけど？

イシバ

いつもではない。

ユヅキ

…、

想定外の言葉をどのように受け止めたらいいのか分からず、

戸惑いを隠せないままキョウヤの次の言葉を待つ。

イシバ

…おまえとキザキの関わりを知ったあの日から、嫌な予感はしていた。

ユヅキ

…、どういうこと？

ユヅキ

『嫌な予感』って…。

イシバ

俺にとって好ましくない予感だ。

ユヅキ

…、

イシバ

…だが、

イシバ

あいつは、俺が思っているよりもずっといい男なのだろう…、

『…おまえが選んだ男なのだからな』

ポンと一言添えるように、そう何気なく付け加えられた言葉に目を見張る。

ユヅキ

い、いや、あのね、その…っ——

イシバ

……

心底の想いを掘り起こされて心臓が飛び跳ねた私とは対照的に、そっと足を組み替えたキョウヤは、

悠然とした面持ちでコーヒーを口にした。

イシバ

無駄なあがきだ、俺にはしっかりバレている。

イシバ

もともとおまえは、嘘が下手な女だからな。

ユヅキ

っ…、

イシバ

今度は俺が、友人としておまえを力付ける番だ。

イシバ

…あの日、

イシバ

おまえが作ったオムライスに添えてくれたエールのようにな。

ユヅキ

———

こちらに視線を移したキョウヤの瞳がとてつもなく優しくて。

私は、赤く熱を持ち始めた頬をそのままに、

ただ茫然とその相貌をひたすらに眺める。

ユヅキ

（…そっか、あのときのエール…、）

ユヅキ

（だから、『妻になれ』とか、わざとあんなこと言ったんだ…）

最初から、私のキザキさんに対する想いに気付いていて。

想像もしない選択肢を私に突き付けて、

誤魔化すことの愚かさを伝えようとしてくれていた。

イシバ

…ただし。

イシバ

おまえが今後の自分をきちんと見極めずにモタモタしていたら…、

イシバ

泣こうが喚こうが、

イシバ

俺がおまえを攫いに来る。

ユヅキ

そ…そんな、また冗談言って。

ユヅキ

あれは私に刺激を与えるために言ったことだよね？

イシバ

……さあ、どうだろうな。

ユヅキ

え…、

イシバ

……俺は…、

言いかけて、言い惑う。

整った唇は真一文字に線を引いたまま言葉を刻まずに、

私を見つめる瞳は、今ここで何を述べるべきなのかを模索しているように感じた。

イシバ

……

やがて、沈黙が破られた先に待っていたのは、

イシバ

……フッ…、

キョウヤの柔らかな笑顔。

ユヅキ

キョウヤ…？

イシバ

いや、なんでもない。

イシバ

俺は、おまえの＜初めての想い＞を壊すつもりはない。

ユヅキ

……、

イシバ

とにかくおまえは、自分の想いに絶対に嘘はつくな。

ユヅキ

…キョウヤ…。

イシバ

もしもその言いつけを守らなければ、

イシバ

俺にこっぴどく叱られるということを、覚悟しておけよ？

憎たらしいくらいに精悍で深い優しさを湛えたこの微笑を、

私はきっと、一生忘れないだろう。

それほどに、

キョウヤの笑顔は美しく友愛に満ちていた。

ユヅキ

……分かった。

ユヅキ

一応、肝に銘じとく。

今はまだ、50パーセントの了承の意を示すことしかできないけど。

イシバ

…頑張れよ、ユヅキ。

友としての想いが込められたエールは、

私の胸奥に温かな潤いをもたらしてくれた。

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