Vol. 11 不器用な心 ・7

  • キザキ

    自分の気持ちさえも、もうどうでもいいんだね。

  • ユヅキ

    ……私は別に…、

  • キザキ

    ……

  • ユヅキ

    今は…、

  • ユヅキ

    今は、仕事のことで頭がいっぱいなので…、

  • キザキ

    ……そう。

  • ユヅキ

    ごめんなさい、

  • ユヅキ

    もう私に構わないでください。

  • はぐらかしたり意地を張ったり、

  • 自分の心を誤魔化すことなんて、今までにも多々あったはずなのに。

  • 手を伸ばせば届く場所に愛があるにもかかわらず、

  • 裏腹な想いを晒すことがこんなにも苦しいだなんて、思いもしなかった。

  • ユヅキ

    今日は、マユキに付き合ってあげてくれてありがとうございました。

  • 再び差し向けた表情は、普段通りの飾らない笑顔。

  • その刹那、目に飛び込んできたのは、対照的に切なげに翳るキザキさんの面差し。

  • キザキ

    ……

  • ユヅキ

    …、

  • けれど、何も見えないフリをして、

  • スリッパを鳴らしながら自室まで小走りに立ち去った。

  • ユヅキ

    ……

  • ユヅキ

    (……ほんと私、自分勝手だ…)

  • そう理解しながらも。

  • ユヅキ

    ……これでいい。

  • もう一度、

  • 部屋のドアを背に呟いた細い声は、冷たい虚空に溶け込んで消えた。

  • Vol. 11 END

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