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キザキ
自分の気持ちさえも、もうどうでもいいんだね。
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ユヅキ
……私は別に…、
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キザキ
……
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ユヅキ
今は…、
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ユヅキ
今は、仕事のことで頭がいっぱいなので…、
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キザキ
……そう。
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ユヅキ
ごめんなさい、
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ユヅキ
もう私に構わないでください。
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はぐらかしたり意地を張ったり、
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自分の心を誤魔化すことなんて、今までにも多々あったはずなのに。
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手を伸ばせば届く場所に愛があるにもかかわらず、
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裏腹な想いを晒すことがこんなにも苦しいだなんて、思いもしなかった。
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ユヅキ
今日は、マユキに付き合ってあげてくれてありがとうございました。
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再び差し向けた表情は、普段通りの飾らない笑顔。
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その刹那、目に飛び込んできたのは、対照的に切なげに翳るキザキさんの面差し。
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キザキ
……
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ユヅキ
…、
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けれど、何も見えないフリをして、
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スリッパを鳴らしながら自室まで小走りに立ち去った。
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ユヅキ
……
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ユヅキ
(……ほんと私、自分勝手だ…)
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そう理解しながらも。
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ユヅキ
……これでいい。
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もう一度、
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部屋のドアを背に呟いた細い声は、冷たい虚空に溶け込んで消えた。
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Vol. 11 END
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