-
ユヅキ
初等部の頃から、運動会も出られる競技が制限されてて、
-
ユヅキ
遠足なんかも行けないときがあって…、
-
キザキ
……
-
ユヅキ
いろんなこと、たくさん我慢してきた子なんです。
-
ユヅキ
自分が辛かったり寂しかったりしても、それを少しも
面 に出さずに…、 -
ユヅキ
どんなときも笑顔で、みんなにいつも優しくて。
-
キザキ
……
-
ユヅキ
でも、ある日、
-
ユヅキ
みんなで進級記念の制作に取り掛かっていたときに具合が悪くなってしまって、そのまま入院することになって…、
-
ユヅキ
そのときに、マユキはたった一度だけ、
-
ユヅキ
『もうこんな体嫌だ。自分のやりたいことも全然できない』って、初めて私の前で泣いたことがあったんです。
-
キザキ
……
-
ユヅキ
どうしてこんなに優しい子が辛い思いをしなきゃならないんだろうって…、
-
ユヅキ
私が友達としてできるだけのことはしてあげたいって、
-
ユヅキ
そのときに強く思ったんです。
-
ユヅキ
私にとって大切な…大好きな友達だから。
-
キザキ
……、
-
ユヅキ
だから、
-
キザキ
生まれながらにして抱えるマユキちゃんの辛さは、とても気の毒に思うよ。
-
キザキ
でも、釈然としない。
-
そう言って溜め息を吐き出した城崎さんは、想像通りわずかな憤りと侮蔑をちらつかせた。
-
無理もない。
-
私のどんな切なる想いもキザキさんにしてみれば、
-
ただの美化された友愛だとしか思えないのだろう。
-
キザキ
それがキミの優しさだったり、あの子への強い想いだったりするのは分かるけど、
-
キザキ
人によっては偽善だと思われてもおかしくないことだよね?
-
ユヅキ
そうかもしれません。でも、
-
キザキ
自分の気持ちを他所にやって、そんなのただの自己満足じゃない。
-
キザキ
キミのそんな想いを知れば、きっとマユキちゃんだってそう思うよ。
-
ユヅキ
分かってます…っ、
-
ユヅキ
結局は、自分本位で独りよがりなことをしてるって。
-
ユヅキ
だけど…、
-
強く食い下がっておきながら、その言葉の先が紡げない。
-
泣き出す一歩手前の顔を隠すように眉根を強く寄せて押し黙り、静かに目を伏せた。
-
ユヅキ
……
-
キザキ
……
-
ユヅキ
……
-
キザキ
…なんでそんなに、
-
キザキ
バカみたいに不器用なの…。
-
数秒にも数十分にも感じた深い沈黙を崩したのは、キザキさんの呟きと乾いた笑みで。
-
……そして。
-
キザキ
でも僕は…、
-
キザキ
そんなキミのことも好きだよ。
-
ブレることのない真っ直ぐな想いを真摯に告げた。
-
キザキ
キミ以外の女の子なんて全く眼中にない。
-
ユヅキ
…!
-
キザキ
とっくに気付いてたでしょ?…僕の気持ち。
-
ユヅキ
……今ここで、
-
ユヅキ
そういうことを言うのって、卑怯です…。
-
キザキ
どうして卑怯だと思うの?
-
ユヅキ
……っ、
-
キザキ
キミにとっては僕の気持ちなんて、どうでもいいことでしょ?
-
キザキ
それなのに、卑怯だなんて、どうしたの?
-
ユヅキ
…そ、それは…、
-
ユヅキ
(それは……、私が、キザキさんのことが…、好きだから…)
-
ユヅキ
……、
-
キザキ
…言えない?
-
ユヅキ
———…
-
想いが喉奥に引っかかったまま、どうしても連ねることができない。
-
キザキ
…はぁ…。
-
キザキ
ここまで強情な子だなんて思わなかった。
-
突き放すような冷たい声。
-
プツリと、
-
<赤い糸>の切れる音を聞いた気がした。
-
→
タップで続きを読む