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家に着いた頃にはもう夜も更けていて、どんよりと曇った気持ちのまま廊下を歩く。
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ユヅキ
…、
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バスルームに向かう前に、いったん自室にコートや鞄を置きに行こうと階段を上った先で、
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待ち伏せするように壁を背に腕を組んで立つキザキさんの姿を目にし、足を止めた。
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キザキ
おかえり、ユヅキちゃん。
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キザキ
遅かったね。
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ユヅキ
……ただいま。
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キザキ
どこに行ってたの?
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ユヅキ
…、病院——
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キザキ
病院にはいなかったね、やっぱり。
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私の返答をねじ伏せるように、キザキさんは畳み掛けた。
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『やっぱり』と、
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チクリとした言葉を添えた理由を痛感して、背徳感が膨らむ。
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でも、ここで怯むわけにはいかない。
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呆れたような声色を遠慮なく吐き出したキザキさんを一瞥した私は、
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少しばかり尊大さを醸し出して見せた。
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ユヅキ
病院までわざわざ行ったんですか?
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キザキ
今日、ユヅキちゃんが一緒に行かないこと、あの子には連絡してなかったんだね?
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ユヅキ
…、
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キザキ
あの子までもが『別の日に三人で』って予定を延期すると思ったから、言わずにいたんでしょ?
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ユヅキ
さっきの私の質問の答えになってないんですけど。
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キザキ
……マユキちゃんが、僕とユヅキちゃんにって、クッキーを焼いてきてくれたんだよ。
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ユヅキ
……
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キザキ
ユヅキちゃんが仕事なら尚更、休憩の合間に食べてもらいたいって言うから、一緒に医局まで行ったんだ。
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ユヅキ
……そうですか。
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そういえば、マユキからのL〇NEが幾つか入っていたが、未読のまま放置していた。
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ユヅキ
(後で適当な理由見つけて返さなきゃ…)
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キザキ
…ねえ。
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キザキ
聞きたいことがあるんだけど。
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ユヅキ
なんですか?
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キザキ
どうして、マユキちゃんと僕を二人きりにしようとするの?
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ユヅキ
…、
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キザキ
僕とマユキちゃんの二人で食事に行かせるために、急に仕事が入ったなんて嘘ついたでしょ?
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キザキ
どうしてそういうことするの?
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ユヅキ
それを知ったところで——
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キザキ
僕が知りたいから。
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キザキ
僕には知る権利があると思うけど?
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ユヅキ
……
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キザキ
ちゃんと答えて欲しいんだけど。
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ユヅキ
……マユキは、私が一緒でなくても、
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ユヅキ
キザキさんと過ごせたら嬉しいと思うからです。
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キザキ
仮に、マユキちゃんがそうだとしても、
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キザキ
僕は全然嬉しくない。
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キザキさんの眼差しが、一気に憂色に染まる。
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そんな彼を見るのが辛くて、逃れるように視線を逸らした。
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キザキ
いくら僕でも…、
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キザキ
今のキミが何を考えてるのか分からないよ…。
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ユヅキ
……、
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キザキ
ねえ、ユヅキちゃん、
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キザキ
何を考えているのか教えてよ。
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マユキの幸せを、一人の友人として私が強く願う理由。
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素直に抱くその想いを伝えれば、少しは理解してくれるだろうか。
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ユヅキ
……
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ユヅキ
……それは…、
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キザキ
……
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ユヅキ
…マユキは、小さい頃から体が弱くて…、
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ほんのわずかに言い淀んだ後、静かに言葉を紡いだ。
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