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フロントガラスの向こう側が夕闇に包まれた頃、
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ドライブの果てに辿り着いた小さな公園の誰もいないベンチに腰掛ける。
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しばらくして、目の前に広がり始める夜景は、真っ暗な湖に光の粒が幾つも
揺蕩 うようで。 -
冬の澄み切った空気の中で煌めくそれらをぼんやりと眺めながら、白く舞う息を手に吹きかけた。
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誰かとカフェにでも行こうかと考えたが、こういうときに限って都合の合う友達がなかなか見つからない。
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スマホの連絡先をスクロールしてみても、
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『今日は一人で過ごしなさい』と、フラットな画面から言いつけられている気分になる。
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ユヅキ
(…まあ、いいか)
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一人でいるのは嫌いじゃない。
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むしろ、ずっと誰かと一緒にいると一人の時間も欲しくなるような、
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そんな我儘なところが自分にはあるから。
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ユヅキ
誰かと一緒に、か…。
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そう呟いた瞬間、漫画の吹き出しみたいにキザキさんの顔が浮かぶ。
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ユヅキ
ホントやばい…。
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<誰か>という単純なキーワードを出しただけであの人の顔が揺らめくなんて、
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ある意味重症じゃないだろうか。
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そんなことを思えば自嘲めいた苦笑が漏れて、
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買ったばかりの熱い缶コーヒーをコートのポケットから取り出し、プルタブを引いた。
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ユヅキ
……
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香ばしい薫りが鼻腔を突いて、
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いろんな思念が混ざり合う脳奥をピリッと引き締めてくれるのを感じながら、コーヒーに口を付ける。
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びゅっと吹き付けた木枯らしに小さく身を震わせると、
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キザキ
『暖かくしなきゃダメじゃない。』
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キザキ
『風邪引いちゃうよ?』
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ユヅキ
っ…、
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キザキさんのいつもの窘めるような声が聞こえた気がして、
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口に含んだコーヒーを吹き出しそうになった。
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ユヅキ
——…
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恐る恐る後ろを振り返るが、もちろん人影などない。
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ホッと息を吐き出したものの、刹那、言い知れぬ寂しさが心を埋め尽くした。
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ユヅキ
(…なに期待してるの、私…)
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ここに現れるわけがないのに。
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ユヅキ
……、
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ユヅキ
……ッ、…
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ふわっと目頭に熱を感じた瞬間、ゆるゆると溢れる涙が視界を歪ませる。
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恋しいと想う心。
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今までに感じたことのない感情が、こんなにも胸に苦しい。
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ユヅキ
……はぁ…、
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ユヅキ
なんでよ、もうっ…。
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後悔はないはずなのに。
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サッと涙を拭い、空の雄大なキャンパスを見上げてどれだけ気分を紛らわせようとしても、
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胸に燻る痛みや切なさが晴れることはなかった。
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