Vol. 11 不器用な心 ・1

  • 小学校の同窓会は、しばらく疎遠になっていた友情を再燃させる。

  • 彼女、舞雪(マユキ)との絆もその一つだ。

  • 名前の通り、白くふわりと舞う牡丹雪のように清純で儚いというか、

  • 学校の初等部で出会った頃から、体が弱くおとなしい少女だった。

  • 生まれつき脆弱なせいで学校を休みがちなマユキが、クラス内で孤立してしまわないかと危惧した私は、

  • 彼女が学校に来た際には、必ず一緒に遊ぼうと声を掛けた。

  • マユキも私のことをとても慕ってくれて、

  • 当時『一番の友達は?』と答える場面では、

  • 即座に互いの名前を連ねるほどの親友になった。

  • 男勝りでおてんばだった私とは対照的なマユキが、自分にはない魅力を全て兼ね備えている気がして、

  • そんな彼女に素直に憧れていた。

  • その想いは、今でもずっと変わらない。

  • 体の弱いマユキが、この間行われた同窓会に出席できるか心配だったが、

  • 互いに元気な姿を目にして再会を心から喜び合った。

  • その同窓会からしばらく経ったある日、マユキが私の家に遊びに訪れた。

  • リビングで紅茶を飲んでいると、たまたまそこにキザキさんが現れて、

  • キザキ

    『…どうも』

  • マユキ

    『こ、こんにちは…、』

  • マユキとキザキさんは、ごく普通に挨拶を交わしただけだった。

  • けれど。

  • マユキはその一瞬で、キザキさんに心を奪われてしまったらしい。

  • いわゆる、一目惚れだった。

  • 普段は人見知りで恥ずかしがり屋な彼女が、瞳を輝かせながらキザキさんについて訊ねてくる。

  • ユヅキ

    『…悪い人じゃないよ、むしろいい人かな』

  • マユキ

    『わあ、そうなんだ』

  • ユヅキ

    『あ、ときどき意地悪かも』

  • マユキ

    『ふふ、そうなの?』

  • ユヅキ

    『ちょっと可愛いところがあるかな…』

  • ユヅキ

    『万人受けするイケメンなのも認める』

  • マユキ

    『うん、素敵だよね』

  • 思いついたキザキさんの印象を並べれば、

  • マユキは嬉しそうに微笑みながら相槌を打っていた。

  • 以来、マユキは、ちょくちょくうちに顔を出すようになった。

  • キザキさんが家にいるときには、さりげなく会話できるように促してやる。

  • マユキの楽しげな笑顔が純粋に嬉しかった。

  • そんな日が何度か続いたある日。

  • マユキからとても遠慮がちに、

  • キザキさんと一緒に食事に出かけたいが、誘う勇気がない…と切り出された。

  • 早速、キザキさんに食事の話を持ち掛けると、

  • 分かりやすく顔を曇らせて、駄々っ子のように私を軽く睨んだ。

  • キザキ

    『…嫌』

  • キザキ

    『行きたくない』

  • キッパリと放たれた否定文は、キザキさんらしい正直な答え方だと思う。

  • だけど、このままだとマユキの願いを叶えてあげられない。

  • なんとか懇願してみると、キザキさんは渋々ながらも条件付きで了承してくれた。

  • キザキ

    『食事に行く日は、ユヅキちゃんも一緒に行くこと』

  • キザキ

    『三人じゃなきゃ、行かないから』

  • ユヅキ

    『……分かりました』

  • そう返事をしたけれど、

  • それを守る気はなかった。

  • ……もしも。

  • 親友と呼べる大切な友達と自分が同じ人を好きになったら、

  • 私ならどうするのだろう。

  • ユヅキ

    ……

  • その答えは、もう見えている気がした。

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