-
幼稚園に到着し、
-
白いお城をモチーフにしたような大きな建物を仰ぎ見る。
-
いきいきと映える外観は、園児たちのパワーが詰まっているようで
-
眺めているだけでも元気がもらえる気がした。
-
ユヅキ
……、
-
枝木や木の葉などのナチュラルな素材をあしらった門は、まるで童話に出てくる森の入り口みたいで、
-
感慨深く眺めながらそこをくぐり、玄関ホールに踏み入る。
-
ユヅキ
(…わあ、結構な人の数だな…)
-
想像以上の数の来賓や保護者が混在しているホール内で圧倒されつつも、
-
一人の園児も見当たらないことが不思議で辺りを見澄ました。
-
キザキ
みんな、まだ教室にいるんじゃないの?
-
穏やかな声音が右上から降って来て、
-
それを辿ると気遣うように微笑むキザキさんと目が合った。
-
キザキ
ユヅキちゃん、迷子になった人みたいになってるよ。
-
ユヅキ
すみません、
-
ユヅキ
こういった場所は初めてで慣れてなくて…。
-
キザキ
僕もだから気にしないで。
-
ユヅキ
あの…、
-
ユヅキ
ちょっと、中に覗きに行ってみてもいいですかね…?
-
キザキ
さっきから何人か中に入っていく親御さんたちもいるみたいだし、別にいいんじゃない?
-
キザキ
何か聞かれたら招待状を見せればいいんだし、大丈夫でしょ。
-
キザキ
行ってみる?
-
ユヅキ
…行きましょうっ。
-
︙
-
意気込んだ返事とは正反対に遠慮がちに廊下を進んでいくと、
-
キザキさんが話していた通り、すでに教室内の様子を微笑ましそうに見入る保護者たちの姿が目に入った。
-
教室の扉にも、画用紙や折り紙で作った大輪の花や昆虫、動物などが装飾されていて、
-
それらを前にまた目を輝かせてしまう。
-
キザキ
どうやって作るんだろうって、すごく考えてるでしょ?
-
ユヅキ
分かります?
-
ユヅキ
これってやっぱり、幼稚園の先生が作ったんですよね?
-
キザキ
そうだと思うよ。
-
ユヅキ
すごいなあ。
-
色とりどりに作られた飾りを感嘆しきりに眺めてから、
-
園児たちが集う教室を外から一つ一つ見て回る。
-
窓の向こう側は夢の国のように明るく賑やかで、
-
楽し気に過ごす園児たちをを目にして頬は緩みっぱなしだった。
-
ユヅキ
みんな可愛いなー。
-
キザキ
まるで別人みたいだね。
-
ユヅキ
……誰がです。
-
キザキ
ユヅキちゃん。
-
ユヅキ
…、
-
ユヅキ
もしかして、嫌味ですか?
-
キザキ
うん。
-
ユヅキ
っ、うるさいですよっ。
-
キザキ
あははっ、
-
キザキ
嫌味って言うのは冗談だけど…、
-
キザキ
今日のユヅキちゃんはいつにも増して見てたら飽きなくて、
-
キザキ
可愛いっていうのが、本音。
-
ユヅキ
…か、可愛くはないですっ。
-
鼻筋を顰めてちろりと舌を出す表情を生み出したのは、
-
ポッと熱を灯しそうになる顔を誤魔化すための完全な照れ隠しで。
-
ユヅキ
……、
-
気恥ずかしさから、逃れるように前を向いて再び教室に視線を投じる。
-
ユヅキ
(気にしない、気にしない…)
-
そこに、『ふふ…』と小さな笑声が聞こえて、
-
そのことにも気付かないふりで気を紛らわせようと試みていたが、
-
キザキ
…ね、ユヅキちゃん。
-
キザキさんは、私の耳元にそっと唇を寄せたかと思うと、
-
キザキ
せっかくだから、手、繋ごうか。
-
少し甘えるようなしっとりとした低音を奏でた。
-
→
タップで続きを読む