Vol. 10 赤い糸 ・6

  • ゆなちゃんや他の園児たちの努力を讃えるかのように、

  • あいにくの雨空だった昨日とは見違えるような快晴。

  • 発表会の今日は、夜中には雨も止んで、

  • 明け方には上った朝日が雲間から明るく光を放っていた。

  • ユヅキ

    ……

  • 夕べ、ゆなちゃんのお母さんからのL〇NEで、

  • 悪天候になるかもしれない日に私が出向くことを申し訳なげに気遣ってくれていたのだが、

  • それも杞憂に終わって良かったと、自然に柔らかな笑みが零れる。

  • ユヅキ

    …さてと…、

  • ユヅキ

    忘れ物はないかな…、

  • 部屋をキョロキョロと見渡しながら、

  • 手に抱えたラグビーボールほどの包みは、ゆなちゃんへのプレゼントで。

  • 幼い子が好みそうな幾種類ものお菓子をチョイスしそれらを小分けにしたものを、

  • 大判のカラフルなワックスペーパーとセロファンでキャンディのようにくるんでラッピングしてある。

  • お菓子選びから始まり、どのようなラッピングをするかに至るまで

  • キザキさんと相談しながら進めたが、

  • 完成した贈り物は宝石箱みたいにキラキラしていて、なかなか良くできたと思う。

  • ユヅキ

    (ゆなちゃん、喜んでくれるといいな)

  • 朝からせわしなく支度を終えた私は、

  • 浮足立つような気持ちを抑えながらも意気揚々とリビングに入る。

  • 朝からご機嫌なのは、ゆなちゃんや他の園児たちに会えること。

  • 幼い頃は、保育士に憧れていた時期があったほど、子どもが好きだったりするから。

  • ユヅキ

    キザキさん、そろそろ行きますか。

  • キザキ

    …え、もう?

  • リビングのソファーにゆったりと腰かけたキザキさんは、

  • どこかからかいを含めたように口端を上げてこちらを見遣る。

  • キザキ

    ユヅキちゃん、今日はとても機嫌がいいね。

  • ユヅキ

    …別に、

  • ユヅキ

    いつもと同じですけど?

  • キザキ

    嬉しいんでしょ。

  • キザキ

    たくさんの可愛い子どもたちに会えるのが。

  • ユヅキ

    べ…別に……、

  • ユヅキ

    いや、

  • ユヅキ

    やっぱりバレてます?

  • キザキ

    バレバレです。

  • ユヅキ

    ふふ…。

  • つい緩んでしまう頬を取り繕いながら、

  • プレゼントの包みを一旦テーブルに置いてダウンコートを羽織る。

  • キザキ

    プレゼント、喜んでくれるといいね。

  • ユヅキ

    好んで食べてくれそうなお菓子を色々と厳選しましたからね…、

  • ユヅキ

    喜んでくれることを願います。

  • キャンディ型のそれを再び大事に抱え直した私を、

  • 目を細めて微笑みながら眺めていたキザキさんだったが、

  • キザキ

    …ね、

  • キザキ

    どうしてデニムのパンツスタイルなの?

  • キザキ

    もちろんそれも似合ってるけど…

  • キザキ

    同窓会のときみたいに、フェミニンなコーデで行かないの?

  • 少しだけ、笑みを曇らせて訊ねた。

  • 分かってないな…という風にゆっくりとかぶりを振った私は、

  • 彼が思い描くコーデを打ち消すように手のひらをヒラヒラさせる。

  • ユヅキ

    一応ゆなちゃんのお母さんに確認したら、

  • ユヅキ

    『ドレスコードもなにもないので、気楽な格好で来てください』って言ってましたし、これでいいんです。

  • ユヅキ

    そもそも、あんなふわふわした格好で行けませんよ。

  • キザキ

    …どうして?

  • ユヅキ

    もしかしたら、

  • ユヅキ

    子どもたちと一緒に遊ぶ機会があるかもしれないじゃないですか。

  • キザキ

    ……、『遊ぶ』?

  • ユヅキ

    そうです。

  • ユヅキ

    かけっこしたり砂場で遊んだり、とか?

  • 話の途中から嬉々として目を輝かせた私に、

  • キザキさんは暫しあんぐりとした後、愉快そうに笑いだした。

  • キザキ

    …っ、あははっ!

  • キザキ

    発表会に行くんだよ?

  • キザキ

    それはないと思うけどなあ。

  • ユヅキ

    ……

  • こんな些細なことで肩を揺らして笑うキザキさんは、きっとすごく笑い上戸に違いない。

  • ユヅキ

    ……人の楽しみを嗤う奴は、馬にけられてなんとやら、ですよ。

  • キザキ

    あはは、っ、

  • キザキ

    え、なに?

  • ユヅキ

    ……

  • ユヅキ

    (別にいいよ、笑われても)

  • ユヅキ

    (笑う門には福来るって言うし…)

  • …なんて、寛容に思い込もうとしたが、

  • むくむくと不愉快が膨らんでしまい、眉根に縦皺を寄せた。

  • ユヅキ

    いいんですっ、

  • ユヅキ

    同窓会のときみたいに、洒落たお店にご飯を食べに行くわけじゃないんですから。

  • ユヅキ

    行き先は、たくさんの子どもたちが過ごす幼稚園なんですよ?

  • ユヅキ

    動きやすいスタイルがいいに決まってますっ。

  • キザキ

    ほんとっ…、

  • キザキ

    発想が可愛いよね…っ、

  • ユヅキ

    だから。

  • ユヅキ

    いつも言いますけど、可愛くはないんです!

  • キザキ

    …ッ、

  • ユヅキ

    ……

  • ユヅキ

    ……ていうか、

  • ユヅキ

    笑いすぎなんですけどっ?

  • 未だ笑いを抑えきれないキザキさんをじっと睨んでから、

  • ふいっと視線を外してバックを肩に掛ける。

  • ユヅキ

    もうっ、

  • ユヅキ

    行かないなら置いていきますよっ。

  • キザキ

    っ…、

  • キザキ

    あ、待ってよ!

  • 途端に笑いを噛み殺したキザキさんをわざとらしく放置して、

  • プレゼントの包み具合を気にしながら、スタスタと玄関までの廊下を進んだ。

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