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久動
いいな?
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キザキ
…分かったから、早く仕事に戻りなよ。
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久動
っ、と…、そうだな。
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キザキ
……
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久動
それじゃ、キザキ、またな。
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キザキ
……
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キザキ
…——
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キザキ
久動さん!
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すでに数歩進んだ白衣の背に思わず声を投げる。
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職務に戻る手前の勇壮な面差しが、キョトンとしながら律儀に振り返った。
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久動
どうした?
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キザキ
……
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久動
キザキ?
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キザキ
……いつも心配してくれて…、
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キザキ
…ありがと。
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久動
——
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久動
…な、なんだよ、いきなり!
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キザキ
ちょっと、言いたくなっただけ。
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久動
おまえがそんなに素直だと、明日はおそらく猛吹雪だな。
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久動
いや、でかい雹が降って来るかもしれない。
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今までに何度か見たことのある冗談を込めたその破顔は、やっぱり、どんなときも慈愛に満ちていて。
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キザキ
…久動さんこそ。
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久動
ん?
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キザキ
誰かのために動きすぎて、いきなりくたばったりしないでよ?
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久動
ハハッ、大丈夫だよ。
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キザキ
約束だからね?
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キザキ
僕が嫌味を言う相手が一人でも減ったらつまらないから。
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久動
そうだな、気を付けるよ。
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僕の言葉を<意地っ張りな激励>と受け取った久動さんは、
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ちょっぴり嬉しそうに笑って軽く手を挙げると、また踵を返す。
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キザキ
(……ほんとにお父さんみたい)
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毎度毎度、この人は。
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真面目で厳格なところもあって、
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でも、その情け深さはどんなときも無限大で。
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そして、
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まるで僕は、いつまでも<反抗的な思春期の息子>。
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キザキ
(久動さん、28歳だっけ…)
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キザキ
(僕のお父さんに例えるには、若すぎて無理があるけど…、)
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僕の中で、ここまで適役な人もそういない。
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キザキ
(結局…、)
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キザキ
(なんだかんだで、大事な人だから困るんだよね…)
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ふふ、と笑って。
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サラッと軽く手を振り返した僕は、
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誰にも真似できないような精悍な白衣の勇姿を、
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いつもよりずっと素直な眼差しで見送っていた。
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vol.10 城崎ver. END
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