Vol. 10 赤い糸 ・5 …城崎ver.<3>

  • 久動

    いいな?

  • キザキ

    …分かったから、早く仕事に戻りなよ。

  • 久動

    っ、と…、そうだな。

  • キザキ

    ……

  • 久動

    それじゃ、キザキ、またな。

  • キザキ

    ……

  • キザキ

    …——

  • キザキ

    久動さん!

  • すでに数歩進んだ白衣の背に思わず声を投げる。

  • 職務に戻る手前の勇壮な面差しが、キョトンとしながら律儀に振り返った。

  • 久動

    どうした?

  • キザキ

    ……

  • 久動

    キザキ?

  • キザキ

    ……いつも心配してくれて…、

  • キザキ

    …ありがと。

  • 久動

    ——

  • 久動

    …な、なんだよ、いきなり!

  • キザキ

    ちょっと、言いたくなっただけ。

  • 久動

    おまえがそんなに素直だと、明日はおそらく猛吹雪だな。

  • 久動

    いや、でかい雹が降って来るかもしれない。

  • 今までに何度か見たことのある冗談を込めたその破顔は、やっぱり、どんなときも慈愛に満ちていて。

  • キザキ

    …久動さんこそ。

  • 久動

    ん?

  • キザキ

    誰かのために動きすぎて、いきなりくたばったりしないでよ?

  • 久動

    ハハッ、大丈夫だよ。

  • キザキ

    約束だからね?

  • キザキ

    僕が嫌味を言う相手が一人でも減ったらつまらないから。

  • 久動

    そうだな、気を付けるよ。

  • 僕の言葉を<意地っ張りな激励>と受け取った久動さんは、

  • ちょっぴり嬉しそうに笑って軽く手を挙げると、また踵を返す。

  • キザキ

    (……ほんとにお父さんみたい)

  • 毎度毎度、この人は。

  • 真面目で厳格なところもあって、

  • でも、その情け深さはどんなときも無限大で。

  • そして、

  • まるで僕は、いつまでも<反抗的な思春期の息子>。

  • キザキ

    (久動さん、28歳だっけ…)

  • キザキ

    (僕のお父さんに例えるには、若すぎて無理があるけど…、)

  • 僕の中で、ここまで適役な人もそういない。

  • キザキ

    (結局…、)

  • キザキ

    (なんだかんだで、大事な人だから困るんだよね…)

  • ふふ、と笑って。

  • サラッと軽く手を振り返した僕は、

  • 誰にも真似できないような精悍な白衣の勇姿を、

  • いつもよりずっと素直な眼差しで見送っていた。

  • vol.10 城崎ver. END

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