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ユヅキちゃんが残した微笑を思い返しながら、

壁際に設置されたロビーチェアに歩み寄る。

今日の彼女の反応がいちいち可愛すぎて、思わず頬が緩んでしまう。

【恋人】って他人に指摘されてすぐに否定的な言葉が出なかったのは、彼女としてはかなりな進歩。

言い淀んだりするのは、仕方ないとして。

実際には、恋人までの道のりはまだ長いのに、

まるで成就したみたいに舞い上がって、胸の中がほのかな甘さで満たされる。

そんな感じで、

ふわふわとした感覚を密かに楽しんでいたのに。

背後に届いた声音は、聞き覚えのあるもので。

この病院内で、僕のことを知る人物はユヅキちゃんと、

声の主であるその人しかいない。

内心でちょっぴりむくれながら声のほうに向き直る。

再会したところで嬉しいとも思わない相手の登場を少し億劫に感じながらも、

社交辞令の笑顔を滲ませた。

別に、嫌いな人ってわけでもない。

悪い人でもなく、むしろいい人だ。

でも、

彼のことを＜好き＞か＜嫌い＞かの二択で選択しろと言われたら、

迷わずに『嫌い』と答える。

性格とか色々、僕とは正反対のこの人はいい意味で堅すぎて、

おまけに何かと出来すぎていて、

関わると、なんだかいつも疲れるから。

もともといい意味でお節介なこの人は、

日本での大学時代の先輩として、純粋に僕のことを心配してくれているのはよく分かる。

でもそれが、

それこそが、僕にとっては鬱陶しいと思えてしまう。

僕のことを案じる懸念を色濃く表した精悍な瞳は、本当に昔と変わらない。

たとえ相手が僕じゃなくても、

行き惑う人のことを気にかけて丸ごと背負おうとするのは、この人の専売特許だ。

見た目、無骨で不愛想なのに。

中身は全然違って、つまりはお人好しというか、

ほんと、自分のことなんかいつも二の次で。

一息の間の後、

僕は緩く微笑んで久動さんを見つめ返した。

するりと交わすように反問すれば、

どこか無垢なこの人は、きっと話題の矛先を変える。

…ほらね。

わずかばかり揶揄するように肩を揺らして笑えば、

久動さんも釣られたように苦笑を浮かべた。

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