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やっぱり、無茶をしてはいけない。
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酔っ払った上に雨に打たれたせいか、すっかり風邪を引いてしまった私は、
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39度を超える高熱を出してしまった。
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病床に伏せること3日。
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昨日からようやく熱も下がり、具合もすっかり良くなった。
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キザキ
ダメだよ?
ユヅキちゃん。 -
今日から心機一転、
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病院に出勤しようとした病み上がりの私を心配したキザキさんが、すぐさま見咎める。
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ユヅキ
元気になりましたから、大丈夫です。
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キザキ
もう一日ゆっくりしたほうがいいよ。
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ユヅキ
…休み過ぎですよ。
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キザキ
休み過ぎるぐらいがちょうどいいの。
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ユヅキ
熱も下がったのにこれ以上休んでたら、
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ユヅキ
さすがに解雇になっちゃいますよ…。
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キザキ
話が通じないようなそんな病院、こっちから願い下げ。
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キザキ
辞めちゃえばいいよ。
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ユヅキ
簡単に言わないでください。
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キザキ
……
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それ以上口を噤んでしまったキザキさんは、まるで絵に描いたように駄々っ子だ。
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ユヅキ
…、
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ユヅキ
(ああ、一歩も引くつもりがない目をしている…)
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半ば諦めたように項垂れて嘆息しつつも、再度交渉を試みた。
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ユヅキ
ほんとにもう大丈夫なんですけど…、
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キザキ
……
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ユヅキ
体調もすっかり良くなったし、
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キザキ
……
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ユヅキ
聞いてます?
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キザキ
……聞いてます。
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ユヅキ
早く仕事したいんですよね。
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キザキ
…そう。
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ユヅキ
はい。
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キザキ
じゃあ、せめて送迎するから。
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ユヅキ
え。
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キザキ
送迎、するからね?
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ユヅキ
ほんとに平気ですって。
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キザキ
だーめ。
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キザキ
もしもぶり返したらどうするの?
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キザキ
ただでさえ、自分のことそっちのけですぐに無理しちゃうのに。
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ユヅキ
…、
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キザキ
これは譲らないからね?
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ユヅキ
……分かりましたよ、
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ユヅキ
送迎、お願いします…。
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病み上がりのせいもあるのか、いつものような言い合いに発展させるほどの気力を費やせず、
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あっさり降参する。
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今から仕事というときに、些細な軋轢のせいでこれ以上心身を摩耗したくない。
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ユヅキ
(ここはおとなしく、そしてありがたく従おう…)
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ユヅキ
……、
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…というか。
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よく考えたら、
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キザキさんの言うことになんて耳を貸さずにサラッと無視すればいいのに、
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いつのまにか自然と従ってしまっている。
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ユヅキ
……
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きっと、あの日から。
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あのとき、キザキさんが意地悪く…、
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いや、
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しっかりと杭を打ち込むように喝を入れてくれたから、
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私はまた前を向いて突き進む気持ちになれた。
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キザキ
しんどくなったら引き返すから、
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キザキ
正直に言うんだよ?
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ユヅキ
…、
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キザキ
引き返されたら困るって顔しないの。
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ユヅキ
……分かってますよ、もう。
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だから、
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以前よりもずっと彼に心を許し、
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確実に変容し始める自分の胸内を、少しずつ認めざるを得なくなっていた。
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ユヅキ
(…まあ、最初はいきなりキツイこと言われて、)
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ユヅキ
(ちょっと驚いたけど…)
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キザキさんの愛車まで、玄関のアプローチを歩きながらこっそりと苦く笑う。
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ユヅキ
……
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悔しいけど、本当に。
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深淵に沈んだ私を救い出してくれたあの日のキザキさんには、
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心から感謝している。
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