Vol. 2 ヤキモチだったら嬉しい。 ・6

  • レン

    …っ、

  • 玄関の上り框で小さくうずくまったようなそれは、

  • 三角座りをして寝息を立てている、アイリだった。

  • レン

    アイリ…?

  • アイリ

    ……

  • レン

    おい、アイリ…、

  • レン

    起きろ、おまえこそ風邪引くぞ…?

  • 肩に手をかけて軽く揺さぶるが、

  • 項垂れたように白い首筋を伸ばして膝上を枕に眠るアイリは、一向に起きる気配がない。

  • レン

    ……

  • 無理もない、

  • あと2時間もすれば窓から朝日が差し込んでくる。

  • アイリ

    ……

  • 『——…座りして、待ってる』

  • レン

    …!

  • 眠ってるはずのアイリの唇が僅かに蠢いて、

  • 今朝、うまく聞き取れなかった言葉が零れ出た気がした。

  • レン

    (…えっ、今…、)

  • いわゆる幻聴を耳奥で捉えた俺は、頭の中でそれを反芻しながらじっとアイリを見据える。

  • レン

    あのとき、おまえ…、

  • レン

    もしかして、

  • レン

    『三角座りして待ってる』…そう言ってたのか…?

  • 俺に向けた言葉が綺麗な羅列になり、パズルのピースが合わさったようになる。

  • その場に膝を落として屈むと、静かに寝息を立てるアイリの寝顔をそっと覗き込んだ。

  • レン

    …ったく…、

  • レン

    かわいいことしやがって…。

  • アイリ

    ……、

  • レン

    アイリ…?

  • アイリ

    …ぅ、ん…

  • アイリ

    ……あ、お兄ちゃん…、

  • アイリ

    やっと帰ってきた…、おかえり…。

  • 眠気が残るまったりとした瞳を俺の視軸に合わせたアイリは、少しの間ぼんやりとしていたが、

  • 『あっ…』と短い声を漏らして我に返ったように姿勢を正すと、

  • すぐさま俺の額に手を押し当てる。

  • レン

    …、

  • たおやかで優しくて、

  • だが、思った以上にひんやりとしたその感触に驚きながら、

  • 俺は無言でアイリを見つめた。

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