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レン
…っ、
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玄関の上り框で小さくうずくまったようなそれは、
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三角座りをして寝息を立てている、アイリだった。
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レン
アイリ…?
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アイリ
……
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レン
おい、アイリ…、
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レン
起きろ、おまえこそ風邪引くぞ…?
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肩に手をかけて軽く揺さぶるが、
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項垂れたように白い首筋を伸ばして膝上を枕に眠るアイリは、一向に起きる気配がない。
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レン
……
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無理もない、
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あと2時間もすれば窓から朝日が差し込んでくる。
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アイリ
……
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『——…座りして、待ってる』
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レン
…!
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眠ってるはずのアイリの唇が僅かに蠢いて、
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今朝、うまく聞き取れなかった言葉が零れ出た気がした。
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レン
(…えっ、今…、)
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いわゆる幻聴を耳奥で捉えた俺は、頭の中でそれを反芻しながらじっとアイリを見据える。
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レン
あのとき、おまえ…、
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レン
もしかして、
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レン
『三角座りして待ってる』…そう言ってたのか…?
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俺に向けた言葉が綺麗な羅列になり、パズルのピースが合わさったようになる。
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その場に膝を落として屈むと、静かに寝息を立てるアイリの寝顔をそっと覗き込んだ。
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レン
…ったく…、
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レン
かわいいことしやがって…。
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アイリ
……、
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レン
アイリ…?
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アイリ
…ぅ、ん…
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アイリ
……あ、お兄ちゃん…、
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アイリ
やっと帰ってきた…、おかえり…。
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眠気が残るまったりとした瞳を俺の視軸に合わせたアイリは、少しの間ぼんやりとしていたが、
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『あっ…』と短い声を漏らして我に返ったように姿勢を正すと、
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すぐさま俺の額に手を押し当てる。
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レン
…、
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たおやかで優しくて、
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だが、思った以上にひんやりとしたその感触に驚きながら、
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俺は無言でアイリを見つめた。
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