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レン
……
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ダイニングを後にする小さな背を見送りながら、
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どうしても腑に落ちないのは俺の方で。
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あいつは、俺との血の繋がりについて何も知らない。
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俺と兄妹になったそのとき、アイリは俺よりもずっと幼く、
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難しい話は混乱を招くだけだからと、<実の兄妹>で居続けることを親父に託された。
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だから、
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もちろんアイリは、俺のことを本当の兄貴だと思っているはず。
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レン
(……、)
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レン
…いや、でも…、
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あの含みのある言い方といい、
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コップを荒々しく置いたさっきの態度といい…。
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レン
(…いや、やっぱあり得ねーな)
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確実に血縁の秘密は知らないはずだし、兄貴として俺を慕うことはあっても、
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あいつの中にそれ以上の感情なんてものは皆無だ。
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レン
余計なこと考えんの、止めるか…。
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結局は、推測したところで虚しいだけだと苦笑しながら、
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さらにいくつかの食器を手にキッチンに戻った。
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・
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レン
…思ってたよりも遅くなっちまった…。
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合コンで知り合った女と戯れの時間を過ごしたことに後ろめたさを感じながら、
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腕時計に視線を移せば、時間は深夜3時を回っていた。
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レン
……
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一夜限りの関係を、そのときに出会った女と合意のもとで…。
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度々繰り返されるその情事は、俺が健全な若い男であることを肯定し続ける。
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正直、こうでもしないと、
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妹という存在であるアイリを汚してしまいそうになる。
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俺があいつに惚れてさえいなければ、こういった苦悩を抱えることもないのに。
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好きでもない女を抱くことは、
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凝り固まった情欲の塊を打ち壊すだけの虚しい行為で。
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見せかけの快楽に溺れることで、俺はいつもアイリへの想いを誤魔化していた。
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レン
…つーか、
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レン
なにやってんだろうな、俺。
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タクシーを降りてひとりごち、玄関ドアでカードキーをスリットさせる。
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肩を揺らすほどの大きな溜め息を吐き出しながら玄関のドアノブを引いた先で、
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黒い影が視界に飛び込み、思わずビクリとなった。
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