-
・
-
・
-
・
-
レン
…アイリは?
-
数日後、
-
早速、仕事の合間を縫って、ハルカの下校に付き合うことなった俺は、
-
大学の門の前で、ハルカを傍らにアイリの姿を探して辺りを見渡した。
-
ハルカ
あ、アイリですか、あの…、
-
少し人見知りの気質なのか、俺とはチラリとしか目を合わさず、
-
白いワンピースの背中に背負ったリュックの肩紐を掴み直しながら、構内を振り返る。
-
ハルカ
えっと、あの、
-
ハルカ
アイリは、サークルのことで、ですね、えっと…
-
レン
……
-
レン
(緊張するから、とは聞いていたが、これはちょっと…、)
-
想像以上というか。
-
おっとりと声を刻んでなかなか話が進まないハルカの声調に、若干の苛立ちを覚えてしまう。
-
俺はどうも、アイリ以外の女には、無意識のうちに塩対応になってしまうところがあるのかもしれない。
-
そんな自分に内心で呆れながらも、
-
自然とシビアになる目元はそのままに、ハルカを見下ろした。
-
レン
あいつも途中まで付き添うって言ってたと思うが?
-
ハルカ
は、はいっ、あの、
-
ハルカ
この度は、アイリと、お兄さんにまで迷惑をかけてしまって、すみません…!
-
少し焦燥感を滲ませて答えを急かした俺に、ハルカは慌てて口調を早めた。
-
それでも、ゆったりとした語調は相変わらずで。
-
レン
(…これはもう、ある意味、こいつの持ち味なんだろうな)
-
これで懸命に
齷齪 と言葉を紡いでいるのかと思うと、 -
なんだか健気に思えて苦笑が漏れてしまった。
-
俺にはこの手の女は向かないが、こういったタイプを<癒し>だと捉える男も多数いるだろう。
-
ハルカ
お、お兄さん…?
-
レン
っ、…悪い、
-
レン
さっきから、別にあんたを責めてるわけじゃねーんだ。
-
ハルカ
い、いえっ、責められてるとか、思ってませんから…!
-
ハルカ
あの、こちらこそ、本当にすみませんっ…、
-
ハルカ
アイリから、サークルのことで話があるから、先に行っててくれって言われたので…、
-
レン
…そうか。
-
ハルカ
はい…、あの、『待つよ』って言ったんですけど、
-
ハルカ
アイリは、私を気遣ってくれたんだと思います…。
-
レン
気遣う?
-
苦笑を噛み殺して耳を傾けていたが、わずかばかり目を見開いた。
-
ハルカ
実は私、母と二人暮らしで…、
-
ハルカ
その母が今、少し体調を崩して入院中なので、私、学校が終わってから、母の入院先の病院に会いに行ってるんです…。
-
ハルカ
なので、アイリは、気遣ってくれたんだと思うんです、
-
ハルカ
病院で待ってる母のために、少しでも早く先に帰るようにって…。
-
レン
…なるほどな。
-
レン
(アイリが気に掛けそうなことだ)
-
納得しながら、構内を振り仰いで静かに微笑む。
-
ハルカ
すみません、その…、
-
ハルカ
できるだけすぐに追いかけるからって、言ってましたので…。
-
レン
ああ、そういうことなら気にしなくていい。
-
レン
アイリが先に帰りかけろって言ってたなら、あいつの気持ちに甘えさせてもらえばいいさ。
-
ハルカ
は、はい。
-
レン
あいつも、今日は俺がいるから安心してるんだろう。
-
レン
…お母さんのためにも、早く病院に会いに行ってやらねーとな。
-
ハルカ
はい…っ、ありがとうございます…!
-
レン
よし…じゃ、帰るか。
-
夏の終わりを告げるような、そよそよと吹き付ける優しい風に背中を押されるようにして、
-
俺とハルカは並んでゆっくりと歩き出した。
-
→
タップで続きを読む