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レン
(…っ、ちくしょ…、思い出せねーな…)
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思い出そうとどれだけ頑張ってみても、
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頭の中は、綺麗に舗装された地形みたいに何一つ残されていない。
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レン
……
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モヤがかかったようにはっきりしない自分の記憶に少しイラつきながら、ベッドから上体を起こす。
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レン
…、
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仮に、もしも<何か>あったとしたら。
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レン
…まさか、さすがにそれはねーよな…?
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そう呟きながらも、アイリの笑顔を引き裂く最悪の構図が脳裏で浮かび、
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それが妄想でも背中に嫌な汗が滲む。
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レン
……、
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ひとまず、ベッドから離れて部屋から出ようとドアノブに手を掛けたが、
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それと同時に扉が静かに外側に開いて、
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アイリ
…あ。
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アイリ
お兄ちゃん、おはよー!
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にこやかな笑顔の<妹>が現れた。
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レン
っ、アイリ、
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アイリ
なによ、幽霊でも見たような顔をして。
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俺の側をスイっと横切って窓際へ歩み寄ったアイリは、朝日を取り込むべくカーテンを左右に開いた。
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アイリ
今日もいい天気だよ。
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レン
あ、ああ…、そうみてーだな。
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窓から差し込む明るい光に目を細める。
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その眩しさから逃れるようにアイリに目を遣れば、いつもと変わらず明るい破顔と軽やかな声音。
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アイリ
よく眠れた?
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レン
…ぐっすり、眠ってたみたいだ。
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アイリ
ほんと熟睡してたよね。
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アイリ
だから、お兄ちゃんのベッドを借りたよ?
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レン
え?
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アイリ
起こして部屋に戻らせるのがかわいそうだったから、
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アイリ
私のベッドでそのまま寝かせておいたんだよね…——
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お兄ちゃんの部屋が暑すぎて、エアコンで室内が冷えるまで一緒にこの部屋にいたのだと、
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アイリは思い起こすように付け足した。
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レン
(…マジで、覚えてねー…)
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深酒のせいで、全く記憶にない自分にうんざりしてしまう。
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レン
……あのさ、
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アイリ
ん?
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レン
俺…、
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レン
夕べ帰って来てから、なんか変じゃなかったか?
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アイリ
変って、どんな感じで?
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レン
なんつーか…、かなり飲んでたし、
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レン
酔態さらして、なんか、ヤバかったんじゃねーかなって。
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アイリ
別に、大丈夫だったけど?
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レン
……、
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アイリ
確かにかなり飲んでたみたいだけど、
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アイリ
特に気にならなかったかなー。
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レン
そうか…。
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そう答えながらも、アイリの表情の変化一つも見逃さないように、
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それこそ細心の注意を払うようにしてじっとその面持ちを注視する。
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レン
(少しでも顔色が変われば、もしかしたら…、)
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アイリ
お兄ちゃん、私が飲み物を持ってきた時には、もうベッドに寝転んでて、
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アイリ
すっかり寝ちゃってたから。
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レン
…え、
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アイリ
それすらも忘れちゃってる?
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レン
…いや、そうだな、
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レン
飲み物…、
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レン
そっか、そういえばそうだったか?
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どんな飲み物を持ってきてくれたのかさえも覚えていないくせに、
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あたかも納得したように頷いた。
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微々たる翳りも生み出さないアイリに、俺の心も次第に落ち着き始めたが、
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アイリ
そうそう、
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アイリ
私、今日は友達と約束があるからもうすぐ出かけるけど、
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アイリ
一応、お兄ちゃんの朝ご飯を作ってあるから。
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柔らかな眼差しでそう言ってから、
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少しの間こちらを見定めるアイリに、妙な
間 が生まれて。 -
レン
(…えっ、どうした? )
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その瞳の色に、また不安が折り返した。
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