-
それは、当然の反応。
-
<兄貴>である俺の下で縮こまるアイリは、予想通りの態様で。
-
…だが。
-
レン
(……なんで…、)
-
次第に移りゆくアイリの瞳に引き込まれそうに視軸を合わせる。
-
レン
(どうして、おまえ…、)
-
嫌悪や拒絶が色濃くなるだろうと思っていたのに、
-
それとは正反対の色味を帯びた双眸を前にして少し戸惑う。
-
レン
…、
-
アイリ
…お兄ちゃん…、
-
アイリ
やっぱり今日は、なんか変だよ…、
-
レン
……、
-
レン
そう思うか…?
-
アイリ
うん…。
-
アイリ
こんなお兄ちゃん、初めてだよ…?
-
アイリ
何かあったの…?
-
レン
…、別に何も…、
-
アイリの素朴な疑問符に、フッと我に返る。
-
レン
……
-
毎日毎日、アイリへの想いをカモフラージュするために、仮面をかぶって自分を偽って。
-
ほんとは一年中ずっと、
-
おまえの全てを自分のものにしたい俺は、どんな時も変だったりするのに。
-
レン
…ッ、…
-
込み上げてくる苦笑を堪え切れず、唇が弧を描いた。
-
レン
……なあ、アイリ。
-
アイリ
なに…?
-
レン
もしも…、
-
レン
もしも、おまえと俺が、本当の兄妹じゃなかったら…、
-
レン
おまえ、どうする?
-
アイリ
えっ!?
-
レン
もしも、血が繋がらねー兄妹だとしたら…、
-
レン
おまえはどう思う?
-
いつもなら絶対に口にしない禁句を、酔いに任せてすらすらと羅列する。
-
返ってくる答えはだいたい見当がつく。
-
『そんなこと分かんない、考えたこともないよ』
-
そんな感じで、曖昧に濁すだろう。
-
レン
……
-
少しばかり高圧的になってしまいながら、アイリを見下ろし、スッと目を細めた。
-
アイリ
……
-
アイリ
い、言わないと、ダメ…?
-
想像していた返事を即答せずに、アイリは困惑したように視線を逸らす。
-
赤らんだ頬が艶めかしく映えて、
-
そこに口づけたくなる衝動をかろうじて抑えながら、俺は無言で首を縦に振った。
-
アイリ
……、
-
アイリ
———…、かな…。
-
レン
…、
-
消え入りそうなアイリの声に、反問するように目を瞬く。
-
だらしなく聞き逃した酔っ払いの俺は、アイリの渾身の答えをもう一度強請った。
-
レン
なんて言った…?
-
アイリ
だ、だから…、
-
アイリ
もう、ちゃんと聞いててよっ…。
-
レン
…ああ、悪い。
-
アイリ
……、
-
横を向いたままで小さく息を吐き出したアイリは、再び遠慮がちに声を紡いだ。
-
アイリ
もしも…、
-
アイリ
お兄ちゃんと私が兄妹じゃなかったら…でしょ?
-
レン
…ああ。
-
アイリ
……う、嬉しい、かな。
-
レン
——嬉しい…?
-
アイリ
うん…、
-
アイリ
だって、その…、
-
アイリ
お兄ちゃんのことを、好きになるから…。
-
レン
———
-
アイリ
絶対、すごく好きになるから…。
-
レン
———…、
-
まさかの答えは、俺の心に深く入り込んで幾重にも水面を広げる。
-
アイリ
も、もちろん、例えばの話だよ?
-
アイリ
……、
-
アイリ
なんで、そんなこと聞くの…?
-
俺から視線を逸らしたままで、細い声を振り絞るようにしたアイリの白い首筋がコクリと波打って、
-
それを目にした俺の理性が音を立てて崩れそうになる。
-
レン
さあ…?
-
レン
なんでだろうな…?
-
囁くように低く告げながら曖昧な笑みを浮かべて、
-
吸い寄せられるようにアイリの首筋にゆっくりと顔を沈めた。
-
アイリ
えっ——、!?
-
アイリ
っ、や…ッ!
-
レン
……、
-
途端に身を捩るアイリの手首をシーツに強く縫い留めて、白い肌ギリギリに唇を掠める。
-
アイリ
…ッ、お兄ちゃんっ…!?
-
レン
……
-
レン
…心配すんな、なにもしねーよ…。
-
アイリ
で、でも、なんか…っ、
-
レン
なんか、やべーか…?
-
アイリ
う、うんっ…。
-
言葉と態度で抵抗を見せながらも、その熱く潤んだような瞳は卑怯極まりない。
-
レン
(俺がこのまま、ぶっ壊れたら…)
-
レン
……
-
アイリ
お、お兄ちゃん…?
-
レン
……なんでもねーよ…。
-
レン
(それはそれで、俺が卑怯か…)
-
いつになく情欲に堕ちてしまいそうでも、やっぱりアイリの泣き顔だけは見たくない。
-
レン
おまえが面白い答えを返してくるから…、
-
レン
ちょっとふざけただけだ。
-
アイリ
そうだとしても…、
-
アイリ
タチが悪すぎるよ、もうっ。
-
レン
…悪いな。
-
レン
ったく、酔っ払いは何するか分かんねーよな?
-
ククッと苦笑を漏らして。
-
アイリの初心な反応にはつい愉悦に浸ってしまいながら、
-
下に組み敷いた柔らかな肢体をようやく解放しようと、静かに上体を起こしたが、
-
レン
…、っ、
-
酩酊に耐えていた体が限界点に達したのか、強烈な眩暈に襲われる。
-
アイリ
えっ…、大丈夫!?
-
アイリ
お兄ちゃん…!
-
レン
っ、…——
-
アイリの頬横をすり抜けるようにして倒れ込み、ベッドに顔を埋めた俺は、
-
そのまま深く意識を手放してしまった。
-
・
-
・
-
・
-
→
タップで続きを読む