Vol. 8 仮初の告白 ・2

  • アイリ

    ちょっ…、

  • アイリ

    お兄ちゃん、…?!

  • レン

    ……

  • 眼を白黒させるアイリを無視して通話ボタンをタップし、シオンとの繋がりを断ち切ると、

  • 無造作にベッドの上に放り投げる。

  • 普段では考えられないその行動に、アイリはひどく狼狽えながら俺を見つめた。

  • アイリ

    ど、どうしたの、お兄ちゃん…、

  • アイリ

    今日はいつもより飲みすぎちゃった…?

  • レン

    …、いや…、

  • アイリ

    なんか…、ちょっと変だよ、

  • アイリ

    大丈夫?

  • レン

    …悪い、

  • レン

    確かに、かなり飲んだから…、

  • レン

    ちょっと頭のネジが2つ3つ飛んでるのかもしれねー…。

  • 苦く笑いながら、取り繕うように長めの前髪を掻き上げる。

  • レン

    ……シャワー、浴びてくる…。

  • アイリ

    ちょっと待って、お兄ちゃん。

  • レン

    …なんだ?

  • アイリ

    もう少し酔いが醒めてからからのお風呂のほうがいいんじゃない?

  • レン

    …問題ねーよ。

  • アイリ

    でも、ちょっと心配だよ。

  • 憂う瞳が俺を包み込んで、

  • 今夜は特別、そんなアイリを妙に艶っぽく感じてしまう。

  • レン

    ……

  • 緩く口角を引き上げると、スッと伸ばした指先でアイリの滑らかな頬に触れた。

  • レン

    そんなに心配なら、

  • レン

    一緒に入るか…?

  • アイリ

    な…、なに言ってんのっ…、

  • アイリ

    お兄ちゃんがヤバい人になっちゃった!

  • 揶揄からかいを含んで苦笑交じりに言いながらも、両頬を赤く染めたこいつの面貌は、

  • 俺が完全にいつもの状態ではないことを物語っている。

  • レン

    …顔、赤いんじゃねーか?

  • アイリ

    そんなことないっ、

  • レン

    ……

  • レン

    (相変わらず、初心だな…)

  • 目の前の[#cnn=1#]を内心でこっそり蹂躙しながら、

  • それとは相対的に穏やかな笑みを広げて見せる。

  • レン

    …つーのは、もちろん冗談だ。

  • レン

    大丈夫だから、おまえはもう寝ろ。

  • 微笑みを湛えたまま、酒気を含んだ甘ったるい溜め息を短く吐き出して。

  • レン

    …おやすみ、アイリ

  • まごつくアイリの頭をポンポンと撫でた後、

  • 兄貴らしく背を向けて、バスルームに向かった。

  • シャワーを浴びれば少しはスッキリするかと思ったが、

  • なかなかそうはいかない。

  • 体の表面は清々しい満足感を得られても、

  • アルコールが十二分に満たされた体内は気怠く俺を支配した。

  • タオルドライのみの濡れた髪をそのままに、のんびりとした足取りで自室を目指す。

  • ようやく階段を上り切ったところで、

  • アイリが俺の部屋から出てくるところを目に留めた。

  • レン

    …どうした?

  • アイリ

    あ、お兄ちゃん、

  • アイリ

    今、お兄ちゃんの部屋のエアコン付けておいたよ。

  • アイリ

    暑いとなかなか寝付けないだろうなと思って。

  • レン

    …そうか。ありがとな。

  • 気遣いに柔く目尻を細めて、首に巻いたバスタオルで髪を拭きながら自室に向かいかけたが、

  • アイリ

    そうだ、

  • アイリ

    お兄ちゃんの部屋が涼しくなるまで、私の部屋にいる?

  • アイリ

    エアコン、今付けたところだから、

  • アイリ

    たぶんまだ、部屋の中はとても暑いと思うし。

  • レン

    …、

  • すれ違いざまにかけられた言葉に、ピタリと足を止める。

  • レン

    そんなに俺の部屋…、暑いのか?

  • アイリ

    うん、かなりね。

  • アイリ

    入った瞬間、熱気でモワッとしてたから。

  • 同情に苦笑いを添えたアイリを目にして、俺も力なく笑う。

  • レン

    (風呂上がりに暑いのだけは、勘弁してくれ…)

  • それでなくても、酒が残る体は紅く火照っているというのに。

  • レン

    じゃあ、悪いが、少しだけ…、

  • レン

    おまえの部屋に居させてくれ。

  • まるでガキのように項垂れた俺は、ちょっとした暑さに耐えることすら煩わしくて、

  • なんの躊躇いもなくするりと要望を告げた。

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