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俺は、リビングに姿を現したアイリに駆け寄るとすぐさま腕の中に閉じ込めて、
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その体を強く抱きしめていた。
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レン
…っ、
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胸にすっぽりと収まるアイリの頭上に唇を埋めて、抱き込んだ腕に力を込める。
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アイリ
お、お兄ちゃ…、
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レン
バカヤロウ…
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アイリ
えっ、
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レン
俺に嘘なんかつきやがって…
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アイリ
…嘘…って、別に…、
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レン
ついたじゃねえか、
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レン
サキちゃんと海へ行く、
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レン
晩飯も付き合ってもらう…そう言ってたよな?
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アイリ
———…
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アイリ
…なんで、バレちゃったのかな…
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レン
出張先でサキちゃんにバッタリ会ったんだよ。
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レン
サキちゃんも、おまえのこと心配してたぞ。
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アイリ
え…
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アイリ
ってことは、今回は彼氏がこっちに来るんじゃなかったんだ?
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アイリ
なんでまた、そんなすごい偶然…、
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レン
おまえはほんとに、俺たちに気を遣いすぎだろうが。
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アイリ
だって、
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レン
もういい、分かってる。
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レン
(おまえのそういった、思いやりも全部…)
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アイリ
まさかこんな風になるなんて…、
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アイリ
ちょっと、びっくりだ…。
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思いがけないことに動転しているアイリは、おずおずと声を途切れさせた。
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レン
……
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そんなアイリからそっと身を逸らし、なだらかな両肩に手を乗せて目線を捕まえる。
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…逃がすつもりはなかった。
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こいつがもし、ふいっと視線を外せば、
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その顎先を捉えて俺の瞳の内に閉じ込めるつもりだった。
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アイリ
…、
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だが、
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アイリは俺の視線から逃れようとするどころか、
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しっかりと受け止めるようにして視線を交差させる。
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アイリ
お兄ちゃん…?
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レン
……
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アイリ
どうしたの…?
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レン
…———
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レン
———好きだ…
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薄く開いた唇が、滑るように低く小さな音を刻む。
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アイリ
えっ?
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レン
……
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アイリ
え、なに?
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アイリ
何か言った?
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アイリ
今…、
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レン
……
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訝りながらも当惑の色を見せるアイリを見つめながら、
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溢れてどうしようもないこの想いをこのままぶちまけるかどうか、胸内でその答えを模索していた。
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レン
(好きなんだよ、おまえが…、)
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もう、どうしようもないほど。
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レン
……
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おまえにとっての<実の兄貴>がいきなりそんなことを口走ったら、
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おまえはきっと卒倒するだろう。
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…それでも。
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レン
(いっそ全部吐き出して、もう、楽になっちまうか…?)
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アイリ
ねえ、お兄ちゃん…?
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アイリ
どうしたの…?
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レン
っ、…
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気遣うようなアイリの優しい声にハッとなる。
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吐き出したら、もう二度と取り返しがつかない。
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レン
(こいつにとっての俺は、)
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レン
(この世でたった一人の<肉親>なのに)
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下手したら、アイリがこの世で<独りぼっち>になってしまう。
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レン
……
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アイリ
…お兄ちゃん?
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レン
……なんでもねーよ、気にすんな。
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アイリ
でも…、
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レン
ほんと、なんでもねーから。
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アイリ
……ん…。
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レン
…それより、
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レン
おまえの誕生日が終わるまで、あと3時間だな。
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想いを内側に封印して。
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今日、どんな想いで家に戻ってきたのかも、曖昧に濁したままで。
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レン
誕生日おめでとう、アイリ。
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俺は穏やかに微笑んで、アイリの頭をくしゃっと撫でた。
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