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高速道路をノンストップで突っ走っても、片道2時間は軽くかかってしまう道のりを進む俺の脳裏には、
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アイリの面差しが消えては浮かぶ。
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飛ばすなと言われた忠告を念頭に張り巡らせつつも、適度な速度を超過したスピードで車を走らせた。
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もしも
同僚 が助手席に乗っていたら、間違いなく叱られるだろうし、 -
これから免許を取ろうと考えているアイリにも、あまり見せたくない運転だ。
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そんなことを思えば短く笑みが零れて、
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だが、踏み込んだアクセルペダルは解放することなく、自宅へと急いだ。
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︙
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灯りが点されず、闇夜に溶け込んで佇む家は、そこに誰もいないことを伝えてくる。
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レン
さすがに、遊びに行ってるのかもしれねーな…
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あいつは友達も多い。
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サキ以外に都合が付いた他の友達と出かける可能性だって大いに考えられる。
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レン
(一人じゃねーなら、)
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レン
(おまえが寂しい想いをしていないなら、それでいいが…)
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レン
…、
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玄関から廊下を進み、リビングの木製ドアを開ければ、ただ暗がりが広がっていて。
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誰もいないひっそりとした空間はひたすらに寂しげだ。
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レン
まだ着信ねえな…
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ポケットから取り出したスマホの画面を睨んで、もう一度アイリの番号を呼び出す。
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レン
……、
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レン
やっぱ、出ねーか…
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耳に残る呼び出し音をやけに虚しく感じた途端、まるで露頭に迷ったみたいに不安要素が背筋をなぞる。
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溜め息に乗せてそれを吐き出すと、
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手にしていた車のキーとスマホをセンターテーブルに投げ出し、ソファーに腰を下ろした。
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レン
……
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昼間の暑気を溜め込んだ室内の重苦しい空気にも肩を落としながら、
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オットマンの座面に転がるエアコンのリモコンに手を伸ばしてスイッチを入れる。
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指示通り涼風を流し込んでくるエアコンの清涼感に身を委ねた途端に
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強くのしかかってくる疲労感に抗えなくて、軽く項垂れた…、
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と同時、
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レン
…っ、
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突然、部屋の暗転を塗り替える明るい光。
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それは、シーリングライトや間接照明がいつものように息づいたことを表していた。
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アイリ
…お兄ちゃん!
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アイリ
なんでうちにいるの!?
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レン
…――!
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『…アイリ!』
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そういつものように、声に出したつもりだった。
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まずはその名を呼んで、
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どこかへ行ってたのか?と、余裕めいた素振りで冷静に訊ねるつもりだった。
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レン
———
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アイリ
——…お、お兄ちゃん…っ!?
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レン
…、
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アイリが嫌がるだろうとか、
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変な兄貴だと思われるに違いないだとか…、
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今の俺に、そこまで配慮を巡らせるゆとりはなかった。
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