Vol. 5 ずっとそばにいたい。 ・4

  • まず、自分の隣にいるのは遠距離恋愛中の恋人で、

  • いつもは彼氏が会いにきてくれているが、今回は自分がここまで会いにきているのだということ。

  • 当初、もちろんアイリと二人で海に行くことになっていたが、

  • サキが恋人と久しぶりに会える日が、奇しくもアイリの誕生日と重なってしまったこと。

  • それを知ったアイリが、海へはまたいつでも行けるのだからと自分との約束は取り止めて、

  • サキが恋人と会うことを優先するようにと、強く推し進めてくれたこと。

  • …そして。

  • *

    <毎年、お兄ちゃんが誕生日を祝ってくれるから寂しくないし、全然大丈夫だよ>って…、

  • *

    笑って言ってくれたんですけど…、

  • *

    レンさんがここにいるってことは…、

  • アイリは今、一人ってことですよね…?』

  • …と。

  • 心配そうな面差しで述べたサキの声が、木霊みたいに耳奥で繰り返される。

  • 俺が出張のことをアイリに告げたのは、

  • サキと海へ行く約束を白紙に戻した後だったということも、

  • 今、改めて知った。

  • レン

    …―――

  • レン

    (なんだよ、それ…)

  • *

    あの、レンさん、

  • *

    ほんとにごめんなさい、

  • *

    私、ちゃんともっとアイリに確認してれば…、

  • レン

    …そんな顔するな、サキちゃん。

  • レン

    アイリがそうしたかったんだから、気にするな…、な?

  • *

    でも、

  • レン

    サキちゃんが謝ることじゃねーよ。

  • レン

    むしろ、あいつのお節介を聞いてやってくれて、ありがとな。

  • レン

    あいつも今頃は、他の友達と遊びに行ってるさ。

  • *

    …はい、そうだといいんですけど…、

  • レン

    ほら、彼氏待たせとくのも悪いだろ、もう行きな。

  • 未だ申し訳なさそうに、案じるような視線を寄越してくるサキの肩に、そっと手を乗せて微笑みかける。

  • レン

    (……)

  • そう、もちろんサキのせいなんかじゃない。

  • そして、お節介すぎるアイリのせいでもない。

  • レン

    じゃあな。

  • レン

    またうちにも遊びに来いよ?

  • *

    …はいっ、

  • *

    ありがとうございます…!

  • レン

    おう、またな。

  • レン

    (……、)

  • 丁寧に頭を下げたサキが踵を返したところで、すぐにアイリに電話をかける。

  • レン

    ……

  • アイリがついた優しい嘘に、いつも気づけない自分はどうしようもなく間抜けで。

  • レン

    ……、

  • きっと、出張で忙しい俺を気遣って。

  • サキにも、余計な気遣いをさせないように、

  • 誕生日を俺に祝ってもらうから寂しくない、だなんて。

  • レン

    (最初から、俺と過ごせねーことを分かってたくせに…)

  • レン

    …、

  • それで?

  • 結局は、そんな健気な気遣いに全く気付けなかった俺は、

  • やっぱ、誰よりもイケてねーな。

  • レン

    ……、

  • レン

    遅ぇな…

  • 普段よりも長い呼び出し音は、このままだと留守電に切り替わるだろう。

  • 俺は、逸る気持ちを抑えながら通話口に意識を集中させた。

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