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ある日の朝。
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朝飯を終えてすぐ切り出した俺の話を、
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アイリはとりわけ表情を変えることなく普通に聞き入っていた。
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アイリ
じゃ、明後日から出張なんだね。
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レン
悪いな、おまえの誕生日に被って…
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アイリ
ううん、いいよ。
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アイリ
どうせ今回の誕生日は、
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アイリ
サキと海へ遊びに行くことになったしね。
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『ついでに晩御飯も付き合ってもらうよ』と、楽しげな笑顔で続けた。
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サキは、中学時代からのアイリの親友で。
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誕生日を心から祝ってくれるその純粋な想いはありがたい。
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…が、本音を言えば、
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レン
(なんで海…?)
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レン
(しかも夏の海、)
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レン
(男連中がこぞって集まるようなそんな場所に、わざわざ行く必要あるか?)
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つい、そんなことを思ってしまう。
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レン
(…って、)
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レン
(こいつの誕生日に仕事を優先しなきゃならねー俺が言える立場か…)
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子どもの頃から、アイリの誕生日は家族揃っての晩飯で、
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ホールケーキや豪華な料理を並べた食卓を囲んで祝うのが恒例だった。
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親父やアイリの母親が他界してからもそれは変わることなく、
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これまでも、俺がアイリのそばでささやかながらも祝っていた。
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無論俺も、そのことを素直に嬉しく思っていたし、
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特に、アイリへの想いを自覚した2年前からは、
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俺だけに与えられた特権のような気がして、誰にも譲りたくない特別な日になっていた。
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レン
……
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だが、今年の誕生日は、仕事の都合で祝ってやれない。
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誰よりも近くで祝いたいと願う胸内を持て余しながら申し訳なく事情を説明したが、
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仕事とかその他諸々、社会人としての俺をいつも尊重してくれているアイリが
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「嫌だ」なんて言うわけがないのは分かっていた。
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だからこそ、
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こいつの誕生日に出張のせいでそばにいられないなんて、正直、俺にイライラが募る。
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アイリ
お兄ちゃん、
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アイリ
なんかちょっと、眉間にシワ寄ってない?
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レン
…、
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レン
そうか?
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レン
気のせいだろ。
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アイリ
ふーん。
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レン
それよりおまえさ、
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レン
今年の誕生日プレゼント、なにが欲しい?
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ひとまず話題を変えようと、
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少し前から聞こうと思っていた質問をアイリに投げかけた。
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