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レン
…、
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レン
(ヤバイ、このままだと…、)
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レン
(マジで、アイリを…)
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嫌でも高鳴る鼓動は、容赦なく俺を男に変容させようと胸中で荒く波打ち、
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壁時計の何気ない秒針の音までも、タイムリミットを告げるように詰め寄ってくる。
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レン
……、
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アイリ
…なんでもない…、
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レン
え?
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アイリ
ちょっと、怖かっただけ。
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レン
…、
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アイリ
地震…、
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アイリ
でも、もう落ち着いたから。
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レン
そ、そうか、
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レン
それならいいが…。
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小声だが押し戻すようなアイリの口調に改めて我に返り、
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じわりと染み渡る安堵感の片隅で、危なっかしい自分を戒めた。
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レン
(…バカか、俺は)
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いとも簡単に理性が壊れそうに、必死でそれを安定させなければならない自分のことが、
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どうしても許せない気がして。
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レン
…なあ、アイリ、
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アイリ
うん?
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レン
佐山先生に頼んで、先生の代わりにおまえが奥さんと一緒の部屋にしてもらうか。
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脳裏に浮かんだ、ある意味俺にとっての名案を示した。
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アイリ
え、どうしたのいきなり…、
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アイリ
なんで?
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俺の戒律的な心情とは裏腹に、アイリはキョトンとして俺を見上げる。
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清白な妹を納得させる理由をいち早く弾き出しながらも、
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今しがた思いついたことのように酒を飲むジェスチャーをして見せた。
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レン
ちょっと久しぶりに佐山先生とサシで飲みたくなってさ。
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レン
晩飯の時は仕事の話とか近況報告とかだったから、
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レン
昔の話もしたくなったんだよ。
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アイリ
ふーん…
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レン
地震の様子を見るついでに、先生に部屋を代わってもらえないか頼んでくるから、
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レン
ちょっと待っててくれ。
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アイリ
……
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アイリ
…やだ。
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レン
えっ…、
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アイリ
やだよ…、
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レン
<やだ>って、
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レン
おまえ…、
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アイリ
お兄ちゃんと同じ部屋がいい。
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レン
…———
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予想外に吐き出された言葉に当惑して、
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どうしても驚きが隠せなくてアイリを食い入るように見つめる。
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その視線を受け流すように瞼を伏せたアイリは続く言葉を模索しているのか、
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しばらく口元を引き結んで沈黙していた。
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……そして。
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アイリ
その…、
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アイリ
やっぱりほら、気を遣っちゃうよ、
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アイリ
先生の奥さんはいい人だけど、
今日は初めて会ったし…、 -
アイリ
やっぱり、同じ部屋なのはちょっと、ね…
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控えめな笑顔を向けたアイリは、言葉を選ぶようにして憚りながら声を紡いだ。
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