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レン
おまえもな。
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アイリ
…え?
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レン
自分のこと、もう少し自覚したほうがいいんじゃねーか?
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アイリ
私は別に、大したことないもん。
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レン
そう思ってるのはおまえだけで…、
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レン
いや、
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レン
やっぱ、おまえは自分の魅力に疎いくらいがちょうどいいかもな…。
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アイリ
…なにそれ。
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俺の言葉の最後が独り言に近かったからか、
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アイリはその意味を催促するように凝視してきたが、
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首を振ってやんわりと曖昧に濁してみせる。
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レン
なんでもねえよ、気にするな。
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こいつが本気出すと、すぐに恋人ができるだろう。
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余計な入れ知恵なんかして、墓穴を掘るのは俺の方だ。
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兄貴という立場で、アイリの幸せを遠くから見守る覚悟をしていながらも、
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そんな日なんて、まだ先でいいに決まってる。
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レン
(むしろ…、ずっと来なきゃいいのに)
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レン
……
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レン
(…ったく、)
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レン
(切ないっていうのは、こういう気持ちのことを言うんだろうな…)
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ぼんやりとそんなことを思い巡らせながら、
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立ち上がろうと片膝を立てた、その時ーーー
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レン
…ーー!
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アイリ
…、っーー!
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ゴゴッ…!!と、重低音のような地鳴りが響いたかと思うと、
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家屋が丸ごとグラグラと揺れ始めた。
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アイリ
っ!なに、地し…ッ、!?
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レン
っ、…!
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アイリが震動の正体を言い終えるより早く、
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咄嗟に上から被さるようにしてその小さな体を抱え込んだ。
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下から突き上げるような激しい揺れに呼応するように、天井からぶら下がるアンティーク調のシーリングライトが振り子のように大きく振れて、
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間接照明として窓際に立つフロアライトが今にも倒れそうに左右に動く。
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レン
…、
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それは、ほんの数秒程度のものだったが、
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短くも荒い地表の震動だったことを物語っていた。
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アイリ
……止まっ、た…?
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レン
…ああ、
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ゆったりと波間が引くように収まりを見せる地震に、俺もアイリもホッと吐息を漏らした。
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レン
…大丈夫か、アイリ。
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アイリ
うん…、大丈夫…、
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アイリ
すごくびっくりしたけど…
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レン
だよな、俺も焦った…
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アイリ
怖かったね…
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レン
ああ…。
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アイリ
お兄ちゃん、
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レン
ん?
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アイリ
もう大丈夫だよ、離してくれても…
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レン
…っと、そうだな、悪い。
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抱き締めたままになってしまっていたアイリの体を慌てて手放し、
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苦く笑った俺だったが。
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レン
……、
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レン
アイリ…?
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アイリ
……
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どういうわけか、
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アイリは俺のシャツの胸元あたりをキュッと握りしめて動かない。
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レン
…、どうした?
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アイリ
……
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じっと見つめてくるアイリの相貌が、ほんのわずか情炎を湛えているかのように感じて、
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俺は惑いながらも視線を重ねた。
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