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高校時代の恩師が古い別荘をリフォームすることになり、直々に依頼を受けた俺が設計プランを立てることになった。
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週末、間取りを設計するための視察で、
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俺は恩師の佐山先生と奥さんが待つその別荘を訪れていた。
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山間にあるこぢんまりとしたアットフォームな雰囲気の別荘は初めて訪れた俺に好感を与え、
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一緒に連れ立ったアイリの目にも同じように映ったようだ。
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最初、一人で別荘に出向くつもりだったが、
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街のど真ん中の慌ただしい風景しか知らないアイリに、ちょっとした自然を味わわせてやりたいと思った。
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断るだろうと思いながらも誘ってみると、予想を覆してアイリは子どものように喜んだ。
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…
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アイリ
旅行みたいで楽しそうじゃん!
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レン
だろ?
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レン
俺は仕事も兼ねてるから、おまえとずっと一緒に過ごすわけにはいかねーが、
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レン
佐山先生も奥さんも歓迎してくれてる。
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レン
のんびり楽しめばいいさ。
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アイリ
うん!
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アイリ
楽しむぞー!
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…
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山の天気というのは変わりやすいもので、
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朝は晴れていたのに、昼過ぎあたりから灰色の雲が空を埋め尽くした。
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そして今、
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佐山先生夫妻と晩飯を終えたダイニングの窓の外では、土砂降りの雨が建物や地面を激しく叩いている。
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もともと、今夜はこの別荘に一泊させてもらう予定だったから別段気にしていなかったが、
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先生のいきなりの一言で事態は一変してしまった。
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神楽くん、申し訳ないのだが…、
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さっき気になって様子を見てきたんだが、君たちのために用意していたニ部屋の雨漏りがひどくてな。
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空き部屋があと一部屋しかなくて、
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すまないが、妹さんと同室でも構わないかね?
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レン
…——えっ!
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レン
ああ、いや、それは——、
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できれば別室がいいのだと畳み掛けようとしたが、
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眉尻を下げた先生の困ったような顔つきに言い淀んでしまい、言葉を続けることができなかった。
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レン
(こうなったら、無理矢理にでも山を降りてビジネスホテルにでも行くか…?)
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レン
(いや、でもこの大雨…、)
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レン
(車のタイヤがぬかるみにでもハマったら、それこそやべーな…)
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レン
……
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レン
(どうする…)
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思わず口を閉ざし、あれこれと考えを彷徨わせる俺を援護するように二の句を続けたのは、
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デザートのアイスを食しながら隣に座っていたアイリで。
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アイリ
同じ部屋で大丈夫です。
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アイリ
兄妹水入らずの時間を楽しみます。
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ケロリとして告げた飾らないその笑顔に、先生も胸を撫で下ろしたように相好を崩した。
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レン
…、
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レン
(ちょっと待て、まずくねーか?)
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レン
(いや、世間から見て俺たちは兄妹なんだ、)
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レン
(まずいって思うのは俺だけか…)
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不安と期待が入り混じったような妙な気持ちに支配される俺は、まるで純朴な少年のようで。
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同室で一夜を共にする相手がどうでもいい奴なら、余裕でいびきでもかきながら朝までぐっすり眠ることだってできる。
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だが、実際は違って、
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俺にとっての最高の女と共に過ごすとなれば、自然と鼓動も高鳴ってしまう。
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アイリ
お兄ちゃんも、同じ部屋でいいよね?
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レン
……あ、ああ、
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レン
別に、構わねえが…、
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レン
……
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好きな女の前での男の理性なんてものは、紙一重でどうにでもなる。
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レン
(どう考えても、試練じゃねーか…)
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突然降りかかった災難のような出来事に、作り笑顔でその場をやり過ごした。
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