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それ以上問いかけることなく素直に閉口した俺を視界の端で捉えたアイリは、
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少しの間考え込むように眉間を寄せた後、下から俺を見つめる。
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アイリ
…でも、今日はさすがに…、
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レン
…ん?
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アイリ
お兄ちゃんの帰りが遅くて……、
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アイリ
やっぱりちょっと、寂しかった…。
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レン
…———
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アイリが遠慮がちに紡いだ言葉は、刹那、
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俺の心を縛る足枷をほんの少しだけ外した。
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アイリ
…っ、…!?
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レン
……
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腕の中のアイリを、強く抱き寄せる。
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熱を帯びたその頬に、ほんのわずか、
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掠めるように唇で触れて。
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レン
…、
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レン
(…好きだ)
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レン
(おまえ以外の女なんて、どうやったって愛せねーよ…)
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知られてはいけない、深くて切ない想いを心根で呟いた。
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アイリ
ね、ねえ、お兄ちゃん、どうしたの…?
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いきなりの抱擁に、アイリは混迷したように身を引こうとする。
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そうするのは当然のことで、
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偽りだとしても、<兄妹>という名の大きな壁を改めて実感して、
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いつもの自分を引き掴むようにして取り戻した。
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レン
……ああ、悪い。
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レン
ちょっと落っことしそうになってさ。
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…誤魔化すことに慣れて、嘘ばかりが上手くなる。
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アイリ
ヤバ…、
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アイリ
もしかして、重かったりする?
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レン
ばか、重いわけねーだろ、たまたまだ。
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アイリ
そか…、良かった…
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レン
つーわけで、しっかり掴まってろ。
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アイリ
う、うん…
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ぎゅっと俺を抱き込むようにしてしがみついてくるアイリを、兄として受け止めながら、
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俺は部屋に続く階段へと歩を進めた。
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︙
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アイリが、俺の手から巣立ってしまったら——。
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いつかそういう日が来る方がいいんだと言い聞かせながらも、
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間違いなく落ちてゆく自分が容易に想像できて、なんとも言えない気持ちになる。
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レン
(…ダメだな、どうしようもねー)
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たとえ気の遠くなるような歳月が経とうとも、
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この想いを断ち切る術が見つかることはないだろう。
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Vol. 3 END
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