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アイリ
なんで、お兄ちゃんが謝るの。
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レン
…、いや、
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レン
気付いてすぐに帰ってくれば良かったと思ってさ…。
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アイリ
だから、そんなのはいいんだってば…、
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アイリ
こんなの寝てればすぐに治るよ。
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レン
……
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熱に浮かされながらもにこりと破顔するアイリのことが、たまらなく愛しくて。
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実はその裏側で、心配させないために強がってるに違いないと、
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そう思うことが俺の自惚れだったとしても。
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今は、
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アイリをすぐそばに感じたいと思った。
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レン
…、
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アイリ
え、お…お兄ちゃん…っ!?
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レン
…このままで、部屋へ連れて行く。
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俺はアイリの体を掬い上げると、そっと姫抱して微笑みかけた。
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途端にアイリは狼狽して、浮かび上がった位置から下方をキョロキョロと見回す。
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アイリ
い、いいよっ、
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アイリ
自分で歩けるからっ…、
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レン
これだけ熱があるのに、
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レン
もたつかねー足取りで、階段登るときにでも転んだらどうするんだ。
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アイリ
転ばないってば…、
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レン
俺が心配するんだよ。
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レン
おとなしくしてろ。
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アイリ
……、
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畳み掛ける俺に向けて、ちょっぴり唇を尖らせたアイリの頬がいつもより赤く染まっているのは、
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熱のせいなのか、
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それとも、
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兄貴の突飛な行動に照れているのか。
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レン
しっかり掴まってろよ?
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アイリ
…もう、分かったよ…。
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レン
後でなにか飲み物持って行ってやるから。
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レン
あと、明日の朝一番に病院に連れて行く。
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アイリ
……
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レン
聞いてるか?
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アイリ
聞いてるよ…
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アイリ
ほんとお兄ちゃんって、私のこと甘やかしすぎ。
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レン
いいじゃねーか、別に。
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レン
この間は、おまえがおんぶをせがんだだろ?
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アイリ
あれは…、寝ぼけてたのもあるし。
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レン
おまえもいずれは独り立ちするんだ、
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レン
それまでは俺が少しくらい甘やかしたところで、誰にも文句言われねーよ。
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アイリ
……、
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アイリ
知らないから。
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レン
なにが?
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アイリ
……私がお兄ちゃんから…、
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アイリ
離れなくなっても。
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レン
え?
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口籠もるような聞きづらい声色のせいで言葉尻を拾うことができずに、
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答えを得ようとアイリの瞳を覗き込んだが、
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アイリ
…なんでもない。
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掻い潜るように視線を逸らしたこいつが素直に答えるわけがなく。
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レン
…、
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いつものように短く打ち返してくる様子に、俺はやれやれと苦笑を漏らした。
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