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レン
ただいま。
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レン
…ほら、アイリ。買ってきたぞ。
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リビングのソファーに腰掛けたアイリの目の前でコンビニの袋を軽くゆらゆらさせてから、
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そっとセンターテーブルに乗せる。
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お気に入りのハート型のクッションを抱きしめてコクリと頷いたアイリは、
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ぼんやりしていた表情を小さな笑顔で綻ばせて俺に向き直った。
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アイリ
ありがと、お兄ちゃん。
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レン
ああ。
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レン
おまえが好きそうなものを選んだつもりだが…、
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レン
ま、好きなものを選んで食えよ。
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アイリ
うん。
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レン
……
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再び頷いたアイリを横目に、いつものルーティンでキッチンに向かう。
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アイリが平らげた晩飯の食器を片付けようと、シンクの前でビルトイン食洗機の扉を引いたが、
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珍しく中が空っぽであることに目を瞬かせた。
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レン
…おい、アイリ。
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アイリ
…なあに?
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レン
おまえ、食洗機の中の食器、片付けてくれたのか?
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アイリ
ううん、ごめん…片付けてない。
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レン
え?
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レン
片付けてない…?
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レン
でも、中に何も入ってねーぞ…
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言葉の最後の方はひとりごとに近く、
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訝しげに眉根を寄せながら冷蔵庫の扉を開いた。
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レン
…アイリ。
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残業や用事があって帰りが遅くなりそうなときは、朝早くに晩飯の用意をしておくわけだが、
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姿を変えることなく皿に乗ったままの形のいいハンバーグと視線がかち合う。
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それは、アイリが全く口をつけていないことを表していた。
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見れば、鍋の中の野菜スープもそのままで。
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レン
(…おいおい、)
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レン
おまえ、メシ食ってねーな?
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アイリ
…うん。
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レン
『うん』って…、
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レン
ちゃんと食わなきゃダメじゃねーか。
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レン
おまえのために、野菜も色々と工夫して詰め込んであるんだからさ。
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アイリ
ごめん…、
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アイリ
あんまりお腹空いてなくて。
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レン
まさかおまえ、
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レン
ダイエットとか考えてるんじゃねーだろうな?
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アイリ
一応は考えてるよ、ダイエットも。
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レン
そんなもんする必要なんかねーよ。
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レン
ちゃんとメシ食え、な?
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キッチンから顔を出して諭すようにアイリを見遣ったが、
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買ってきたスイーツでさえも手を付けていないことに気付き、リビングに戻る。
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レン
どうした?
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レン
買ってきたのに食わねーのか?
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アイリ
…食べるよ。
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レン
そう言ってるわりには、食べる気配がねーな。
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どこか上の空みたいにぽつりと呟いたアイリに苦笑を浮かべながら、
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袋から一つのプリンを取り出し、丁寧にその蓋を剥がして差し出した。
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レン
ほら。
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レン
あとはスプーンだな、店員がこの中に入れてたはずなんだが…、
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アイリ
ありがと…、
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アイリ
自分の部屋で食べるね。
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レン
え、あ、おい。アイリ?
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俺からプリンを受け取ったアイリは、それ以上声を紡ぐことなくすっくと立ち上がる。
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スプーン探しにもたついていた俺を出し抜くように、袋からあっさりそれを取り出すと、
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無言で踵を返して自室に足を向けた。
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レン
……、
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レン
(なんか変だな…)
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なんとなく、その態度に違和感を覚えた俺は妙な不安に駆られて、
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立ち去ろうとするアイリの手を掴んだ。
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