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キザキ
…その様子じゃ、キスもまだかな。
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ユヅキ
…!
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ユヅキ
失礼なこと言わないでくださいっ。
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…でも。
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悔しいけれど、大当たり。
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痛いところを突かれて、気恥ずかしさも相まって大人げなくカッとなる。
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ユヅキ
離してください。
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キザキ
別に獲って食べようとしてるわけじゃないよ。
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キザキ
…はい、お近づきの握手。
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ユヅキ
……
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キザキ
そんなに怒らないでよ?
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キザキ
せっかくの可愛い顔が台無しだよ?
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ユヅキ
……
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まるで思春期の反抗みたいに、いかにも煙たそうに顔を背けて、
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握手の手を握り返すことなく無言を押し通す。
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それが、今の私にできる明確な拒絶だった。
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キザキ
お出かけ、楽しんでね。
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ユヅキ
……
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キザキ
いってらっしゃい。
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キザキ
気をつけてね。
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ユヅキ
……
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キザキ
返事しないと、
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キザキ
ずっとこの手、離してあげないよ?
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ユヅキ
っ、
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ユヅキ
……行ってくる。
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キザキ
あははっ、
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キザキ
家を出るときに、お父さんに言った挨拶と同じだね。
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ユヅキ
…、
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ユヅキ
(私のこと、いつから見てたんだ…)
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もはや驚く気も失せて、胸の内で項垂れた。
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お父さんの知り合いなのだとしたら、こんな人、本当に珍しい。
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どこで知り合ったのか…
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いや、むしろ知り合いだとか思いたくないレベル。
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歴代の第一印象の悪さでは、この人が一番かもしれない。
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キザキ
じゃあ…
またね、ユヅキちゃん。 -
ユヅキ
……失礼します。
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ユヅキ
(「また」はないけどね、もう二度と)
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再会の日など永遠に来ないようにと強く懇願しながら。
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手が解放された瞬間、急くように運転席に乗り込み、
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やっとの思いで目的地に向けてアクセルを踏み込んだ。
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Vol. 1 END
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